お留守番
留守番組のアーサーと双子は、ディックも交えて燦々と降り注ぐ陽光の下にいた。
アーサーとディックはいつものように剣術の稽古をしていて、カイルとライラはその光景を並んで見守っている。その間では冬より少しボリュームの減ったモチが気持ちよさそうに日向ぼっこしていた。
「パパとお兄ちゃん、すごいねぇ」
「んー……」
ぽやんとした口調でライラが言った。カイルは生返事を返し、目を打ち合う二人から逸らさない。
一二、三。四……五。
もう何度も競り合っては離れを繰り返している。ディックは、ちょっと前まではすぐに木刀を落としてしまっていたのに構えている時間が長くなってきた。アーサーはまだまだ余裕そうだが、どこか楽しげに見える。
ふと、きゅるりと腹の虫が鳴いた。ひとつだけではないその音に、そういえばそろそろ昼時だと自覚する。それはアーサーたちも同じようで、再度木刀を構えるでもなくテラスの方へ歩いてきた。
今日はアーサーにカイルが懐いて、ライラはディック。いつもは逆だけど、今日は瑞希もルルもいないから特別なのだ。
アーサーがカイルをくしゃくしゃと撫でる。ディックは軽々とライラを持ち上げると、少しだけ心配そうな顔をした。
「ライラ、なんか軽くなってない? ちゃんとご飯食べてる?」
「? たくさん食べてるよ?」
こてんと首を傾げるライラに、おかしいなぁ、とディックはまだ納得していない。すると、アーサーが小さく笑い声を零した。
「お前が前より筋肉がついただけだろう。ちゃんと背も伸びてる」
アーサーに指摘されて、ディックは自分の体を見下ろした。ぱっと見は分かりにくいが、言われてみればそんな気もする。ふぅん、とディックがようやく納得そうに相槌を打った。
ふいに、ディックの目線が下に行く。足元にはじゃれつくモチがいて、それを摘み上げてライラの腕の中に落とした。
「相変わらずまんまるいウサギだよなぁ」
「モチ、食いしん坊だもん」
そう言うと、ディックはなるほどと肩を揺らして笑った。
それから、話題は昼食をどうするかに移り変わった。瑞希は出がけに昼には帰ると言っていたから、もうそろそろだろうか。街への道を見てみれば、ガラガラと車輪の回る音が聞こえてきた。
馬車は五分もしないうちに家の前に到着する。
全員で出迎えに行けば、瑞希は嬉しそうに相好を崩した。運転手に丁寧に礼を述べてから、瑞希が馬車から降りる。
入れ替わるように、ディックが馬車に乗り込んだ。
「お昼、食べていけばいいのに」
「嬉しいけど、さすがに家族団欒の邪魔はできないよ」
ディックが困ったように苦笑う。それから運転手に目配せして、馬車がゆっくりと動き出した。街に戻り行くそれをしばらく見送る。
カイルはライラの頭をくしゃくしゃ撫でた。
「カイル?」
どうしたの、と不思議そうにする片割れに、なんでもないと素っ気なく返す。ライラはそんなカイルをきょとりとした目で見つめた。
「ほら、家に入ろう。オレ、お腹ぺこぺこなんだ」
そう言って手を引けば、ライラも素直について行く。
ライラは一度だけ馬車の影を振り返り、それから小走りで家に向かった。




