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レシピ

 何人かのペンを置く人が出てきたところで質問はあるかと問いかければ、自治会から手が上がった。


 「これを売り出すとして、取り分はどうするつもりですか?」

 「生産者と販売者への配分が多めになるかと思いますが……あとはそれぞれで話し合って頂ければ」

 「は?」

 「は?」


 自治会員の目が点になる。

 瑞希は首を傾げた。何かおかしなことを言ったかと横目にルルを確認するが、そのルルにもわからないと首を振られてしまう。

 瑞希の芳しくない様子に、自治会員は嫌な予感がした。


 「……このレシピは、売って頂けるんですよね?」

 「え? レシピって売れるんですか?」


 思わず聞き返した瑞希に、自治会員は呆気にとられた。ひくりと口元がひくついている。ミズキらしいと、経営陣が揃って笑い声を上げた。

 自治会員は強引に気を取り直して、瑞希にレシピの販売についてを説明してくれた。

 どうやらこの世界ではレシピの売買はよくあることらしい。個人間でのやり取りなら一度の金銭で終わるのだが、特産物として売り出す場合は複数の店舗が関わることから売上高の割合で報酬が支払われるそうだ。


 「普通はどんな分配になるんですか?」

 「そうですねぇ……物にもよりますが、大抵は自治会が宣伝料や登録料として一割、発案者が三割、残りの六割が販売者の取り分ですね。今回は生産者もいるので販売者三割、生産者三割ってところでしょうか」


 発案者の取り分が多めなのは使用料と、口止め料も含めてのことらしい。

 常に人の集まる王都と違い、地方には多かれ少なかれ閑散期がある。そのため、地方自治会にとって特産物は有効な対策の一つであり、集客源でもあるのだ。よって、特産物が飲食物の場合はその製造法は秘匿されるのだとか。

 こちらで生きることになって大分経ったが、まだまだ知らないことは多くあるらしい。

 感心頻りの瑞希に、マリッサとマルティーナが呆れ混じりに息を吐いた。


 「知らなかったとはいえ……ミズキ、あんたもう少し欲を出したらどうなんだい」

 「まったくだよ。手だけ貸してもらってお礼もさせないなんて、私らを性悪にする気?」


 非難のように聞こえる言葉も、苦笑いと共に言われれば雰囲気は変わる。

 あはは、と笑って誤魔化した瑞希に、自治会員がやれやれと肩を竦めた。


 「さて、ミズキさん。取り分について、ご希望はありますか?」

 「いいえ、ありません。先程の通りにお願いします」


 承知しました、と自治会員が頷く。

 他に意見や質問はと彼が問えば、経営陣は揃って首を横に振った。

 それを確認して、自治会員がすらすらと紙にペンを走らせる。


 「それでは、この契約内容でよろしければ、各自サインをお願いします」


 書き上げられたそれは契約証明書だった。今日の日付から始まって、商品名と売上高の配分の割合、そして製造法の秘匿義務についてが書き込まれている。

 署名は自治会員から始まって、果樹園経営陣、飲食店経営陣を回り、最後に瑞希のもとに届けられた。

 契約内容を確認して、丁寧な字で署名する。

 かくして、瑞希は思いがけない形で定期収入を得ることになったのだった。

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