説明会
あの後、瑞希はすぐにマルティーナに連絡を取った。
今回の提案は果樹園だけでは成立しないものだが、それでもいいかと確認すれば、彼女たちにはもちろんだと即座に頷かれた。それならと方々の飲食店に話を持ちかけると、飲食店側でも悩みの種だったようで快い返事を貰えた。
そして各方面に都合をつけてもらい、《フェアリー・ファーマシー》の定休日、街役場の会議室を借りて説明会を開催することになったのだ。一緒に来てもらったのはルルだけだ。アーサーと双子には、退屈させてしまうだけだからと留守番をお願いした。
そして今、その一室に果樹園経営陣と飲食店経営陣、そして何故か街の自治会までもが一堂に会している。
「どうして自治会まで?」
「街の特産物として売り出せないか検討しているんだよ。その場合は自治会が宣伝しまくるからね」
自治会員はにこやかに答えたが、なんだか大事になってきたなぁ、というのが瑞希の正直な感想だった。
しかしどう売り出すにしても、まずは試飲してみないことには話は始まらない。瑞希は予め作って持ってきた試供品の炭酸ジュースを集まった面々に配っていった。
見た目にはほとんど透明のそれに鼻を近づければ、ほのかに柑橘類の匂いがする。いざ口をつけてみれば、彼らの感じたことのない刺激が口内いっぱいに広がった。
「ん、ほう……美味いな」
「酸味も気にならないわね」
「しゅわしゅわして、今までにない感覚だわ」
「ちと痛い気もするが、若者は好きそうだな」
驚きが強いが、概ね好評のようだ。説明を求める眼差しが瑞希に向けられる。
瑞希は大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出した。時間にして、数秒。けれどたったそれだけで、瑞希のスイッチは切り替わった。
ぴんと背筋を正し、声を張る。真っ直ぐな目で彼らを見つめ返した。
「この度はお忙しい中お集まり頂きまして、誠にありがとうございます。これより、現在お手元にある炭酸ジュースについて、ご説明させて頂きます」
簡潔に挨拶口上を述べれば、親しくしている面々も真剣な顔を瑞希に向ける。日頃と商売は別物だと如実に語るそれらにも、些かも臆する素振りは見せなかった。
この場においての瑞希の役割はプレゼンだ。
今回のセールスポイントは新感覚。それから、特別な物を用意せずに作れるという簡易性だ。
また、別の果物の果汁で味や見た目を変えるなど幅広いアレンジが可能だということから、集客を分散することもできるということも利点として挙げた。
一方で、時間が経てばただのシトラスウォーターになってしまうことも欠点として忘れずに伝達しておく。これには飲食店側から残念そうな声がちらほら上がった。
作り方については材料と手順だけに留めた。商売として考えるなら理屈は不要と判断したからだ。
要点を押さえて説明していけば、聴衆側は自然とメモを取っていく。
中には早速アレンジレシピを考案している人もいて、悪くない手応えに瑞希はこっそりと固く拳を握った。




