酸っぱい!!
試作用にと早くも届けられた果物を前に、瑞希とルルはどうしようかと頭を悩ませていた。
届いたのはオレンジと、早摘みのライムだ。色も形も、瑞希やルルのよく知るものと大差ない。
「薬で甘くしたりは無理なんだよね?」
「うん。味がないってことなら栄養不足だから肥料を作ったりできるんだけど、そういうわけでもないみたいだし……」
申し訳なさそうに首を振るルルの反応は、瑞希も予想していたから拘ることはない。
そうなると果物自体を加工するわけだが、酸っぱすぎるというこれらが、果たしてどれほど酸っぱいのか。
まずは試食とオレンジの皮に包丁を入れれば、瞬間、柑橘類特有の爽やかな芳香が辺りに広がった。嗅覚からも酸味を感じさせるそれに、二人は思わず喉を鳴らす。
皮にもたっぷりと水分を含んだ物だ、果肉の瑞々しさは言うまでもない。早くも包丁を伝った果汁が瑞希の手を濡らした。
手を滑らせないように気をつけながら剥いたそれは、香りのせいか食べる前から酸っぱいという印象を二人に与えた。
恐る恐ると、一口分のそれを口に入れる。
「〜〜〜〜〜〜っっ!?」
瑞希とルルは悶絶した。用意しておいた水を慌てて飲んだが、一度味わった酸っぱさは簡単には消えてはくれない。飛びつくように冷蔵庫から作り置きの茶を取り出して、二人してごくごくとそれを煽った。
「っ何よこれ、酸っぱすぎるわよ‼︎」
「レモンより酸っぱいんじゃないのっ⁉︎」
びっくりした! と大きな声で騒ぐ二人に、様子を伺うようにカイルとライラが顔を覗かせる。
「ママ、ルルちゃん、大丈夫?」
「お口直しにお菓子食べる?」
眉を下げた顔で自分たちのおやつを差し出してくる双子に、我に返った瑞希とルルは即座に大丈夫だと笑顔で固辞した。
双子がまな板の上のオレンジに目を向ける。くん、と揃って鼻をひくつかせると、より強く感じた酸っぱい匂いに、きゅっとしかめっ面をした。
「味は濃いし、栄養たっぷりなのは間違いないんだけど……ここまでいくと確かに問題だわ」
ルルが複雑な顔で腕組みしてオレンジを睨む。薬でどうにもできない以上、ルルには手の出しようがないのだ。
瑞希も、困ったなぁと呟きながらそれを見つめた。
「使い道が無いわけでは無いんだけどねえ……」
「えっ、そうなの?」
ルルが驚いた声を上げる。
瑞希は頷いてオレンジを突いた。
「うん。これからの時期にピッタリな物が作れると思うんだけど……」
「けど?」
子供たちの声が揃う。瑞希は難しい顔で頰に手を当てた。
「薬屋では、ちょっと売りにくいのよねぇ」
思いも寄らぬ言葉に、ルルと双子は顔を見合わせた。
薬屋とは言いながら、《フェアリー・ファーマシー》では茶やゼリーなど、様々な商品を販売している。これからの時期にピッタリだというなら、それを作って新商品にすればいいのに、それがしにくいとはどういうことか。
ますます首を傾げる子供たちに、とりあえず作ってみるかと瑞希はもう一度オレンジと、新しくライムを数個手に取った。




