相談事
比較的客数の少ない時間帯、瑞希は人目に注意しながらルルと話し合っていた。
地球の日本と違い梅雨を経ずに夏を迎えるこの国の夏は、その分暑い期間が長引くらしい。
その夏に向けて売り出す新商品を何にしようかと意見を出し合っているところで、不意にカウンターに近づいてくる人影に気づいて瑞希はぱっと顔を上げた。
「いらっしゃいませ、マルティーナさん」
柔らかな声音で挨拶した瑞希に、向けられたマルティーナは苦笑いで以って応じた。いつもは溌剌とした彼女の元気のない様子に、何かあったのかと瑞希が心配そうな顔をする。
マルティーナは困った顔で瑞希に相談を持ちかけた。
「ミズキちゃん、植物用の薬って作れたりするかい?」
「植物用…………虫除けとかですか?」
彼女は確か夫婦で果樹園を営んでいたと思い出す。しかし尋ね返した瑞希に、そうじゃないとマルティーナは首を振った。
では肥料だろうかと聞いてみるが、どうやらそれも違うらしい。
「今年の柑橘類が、どうも酸っぱいんだよねぇ……」
至極悩ましげにマルティーナが呟く。
柑橘類が酸っぱいのは当たり前ではないのかと、瑞希はますますわからなくなった。
一方で、共感するところがあるらしい他の客が我も我もと集まってきた。話し合う彼らの様子を伺っていると、どうやら「酸っぱすぎる」のが問題であるようだ。
よくよく話を聞いてみると、収穫量だけを見れば豊作だったのだが、果物なのにそのまま食べるには厳しいほど酸味が強すぎるらしい。砂糖と煮詰めてジャムにしたり、他の果物も混ぜてジュースを作ったりもしてみたらしいが、味に変わり映えが無く、しかも量が量だけに早くも飽きが来始めたのだという。
そこで、自分たちにはない発想をする瑞希なら、と思い至ったというのが顛末だった。
頼りにしてもらえることは光栄だが、すでに出来てしまっているものを、果たしてどうにかできるものなのだろうか。
首を捻る瑞希に、マルティーナたちは申し訳なさそうにしながらも引くに引けないと頼み込む。
「薬じゃなくても、何か別の使い道とか、……本当になんでも良いんだよ」
「すぐに何とかしてとは言わないから、考えるだけ考えてみてくれないかい?」
方々から「どうかこの通り!」と拝むように手まで合わされて、あまりの勢いに瑞希は困った顔になった。日本人気質からか瑞希自身の性格か、頼まれ事を断るのは苦手なのだ。
「考えてはみますけど…………本当に、期待はしないでくださいね」
安請け合いはできないと前置きした瑞希の返答に、客たちはそれだけでも有り難いと表情を和らげ口々に礼を言う。
(いつもお世話になってるし、なんとかお役に立てれば良いけど…………)
寄せられる期待に、少しでも応えたい。
瑞希は早速今日から、あれこれ試作を繰り返すことを決めた。




