エピローグ
休日の薬草畑で、植物の世話とは名ばかりに子供たちが遊びまわる。モチは薬草を摘み食いしては、子供たちに可愛らしく叱られていた。
のんびりとしたその光景を、瑞希とアーサーはテラスから見守っていた。
モチについて、アーサーと瑞希は何度も話し合った。話すべきか、話さないべきか。どちらにもメリットがあり、デメリットもあったからだ。何も知らなくては自衛もできない。かといって、全てを話して無用の不安を与えるのは本意ではない。
そうして、モチが極めて珍しい動物であるということだけを話した。
特徴的な体だけでなく実際目にしたシドたちの反応からも、その事実はすんなりと子供たちに受け入れられた。
けれどだからと言って何が変わるわけでもないと、子供たちは今までと変わらない様子でモチを可愛がっている。
「長閑だな」
穏やかな時間の流れを堪能しながらアーサーが目を細める。幸せを噛み締めるような声音に、瑞希も同意しながら微笑した。
子供たちにとって、態度を変えないということは当然のことだった。けれどそれは瑞希やアーサーにとって、子供たちが真っ直ぐに育ってくれていると実感できる貴重なものでもあった。
子供たちの判断を聞いて、二人がどれほど嬉しく思ったことか。
「母さーん、父さーんっ」
カイルが飛び跳ねてこっちこっちと位置を主張されて、二人が立ち上がった。草葉の上をひょこひょこ動く手に誘われながら足を進めれば、モチが草まみれになって慌てふためいていた。
「ちょっと目を離した隙に……」
「何をどうしたらこんなことになるのよ」
しっかりと絡みつかれた姿に苦笑しながら救出を試みるも、パニックを起こしたモチはじたばた暴れて手をつけさせてくれない。
仕方なく、ルルの魔法でモチを抱き上げてもらい、その間に五人でせっせと草を解くことになった。
そうしてようやく自由の身となったモチは、怖かったと泣きつくように子供たちに体を押し付ける。
「これに懲りたら突っ込まないのよ」
ルルが腰に手を当てて言った。それでも邪険に扱わないあたりが彼女らしい。小さな手に撫でられてご満悦な様子のモチに、現金なものだとみんなして笑った。
「さて、そろそろ中に戻りましょうか」
春を迎えたとはいえ、ずっと外にいればさすがに冷えを感じる。温かいお茶で一息つこうと言えば、アーサーが茶を淹れると名乗り出て、一同は意気揚々と家の中に入った。
「平和ねぇ」
瑞希の呟きを肯定するかのように、ふわりと柔らかな風が吹き抜けた。
暖かくなったこの国の気温は、これからますます高くなっていくだろう。
こちらで迎える夏はどんなものになるだろうかと、瑞希はまだ見ぬ先に思いを馳せた。




