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お茶会

 「…………怒らないんですのね」


 ぽつりと、サイレンが呟いた。今にも消え入りそうな声音と同じように、彼女は華奢な体をさらに小さくさせて、カップの水面を見つめている。


 「怒られたいんですか?」


 瑞希は問い返した。

 サイレンが再度黙り込む。きつく引き結ばれた唇に、意地悪が過ぎたと瑞希は苦笑いを零した。


 「怒りませんよ。もう十分に反省していらっしゃるようですから」


 慈しむような笑みを浮かべる瑞希に、サイレンは目頭が熱くなるのを感じた。ひくりと喉が引き攣る。鼻で強く息を吸うと、ぐすっと水っぽい音が鳴った。

 目元に涙を浮かべ出したサイレンに、瑞希が無言でハンカチを差し出す。しかし彼女はそれを受け取ることはしなかった。

 拒むように首を振ると、それに合わせて涙が頬を滑り落ちる。一度流れると次から次へと溢れ流れるそれに、サイレンはまた強く鼻をすすった。


 「ごめん、なさい……止めっ、たいのに、止まらないんですの……」


 ひっくひっくとしゃくりながら、なんとか言葉を紡ぐサイレンに、瑞希がもう一度ハンカチを差し出す。サイレンは今度こそそれを受け取った。


 「無理に止める必要はありませんよ。落ち着いたら、聞かせてください」


 柔らかに微笑む瑞希に、サイレンは目元を拭いながらも首肯する。

 五分か、十分か。それとももっと長い時間か。静かな空間に彼女の嗚咽だけが響く。その中で、瑞希はサイレンが自然と落ち着いてくれる時を待ち続けた。

 泣いて無くした水分を取り戻そうとするようにサイレンがハーブティーを煽り、瑞希がカップに新たな茶を注ぐ。

 それを何度か繰り返してようやく、サイレンは目を泣き腫らしながらも涙を止めた。


 「ごめんなさい、見苦しい所を」


 落ち着きを取り戻した彼女は、楚々として淑女然といった態度で居住まいを正した。


 「貴女に……酷い嫌がらせをしたことも、お詫びしますわ」


 改めて深々と下げられた頭に、瑞希は驚きはしたが拒むことはしなかった。数拍かけて空気を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。溜息にも聞こえる呼気に、サイレンの肩が小さく跳ねた。


 「どうか、頭を上げてください」


 大きくも小さくもない声。おずおずと上目遣いに様子を伺うサイレンに、瑞希は困ったように苦笑した。


 「言ったでしょう、怒らないって。謝ってもらえたから、もういいんです。それよりも、どうしてあんな事をしたのか、聞かせてくれませんか?」


 穏やかな声音で言う瑞希の言葉に嘘偽りはない。それを感じ取ったのだろうか、そろそろと躊躇いがちに顔を上げたサイレンは、ぽつぽつと静かに言葉を紡ぎ、零した。

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