スタートダッシュ
開店から間もなく、店内は人の波でごった返していた。休憩用にと用意した長椅子は早々に満席と早速役に立っていた。客の中には物見遊山で来た人もいれば、誰かから評判を聞いて見物に来たという人もいた。薬以外にも品物を置いていると告知していたから、それを見に来たのかもしれない。
瑞希は子供にも薬が飲みやすいようにとゼリーを作って、商品として陳列していた。喉の細い子供に錠剤は飲みにくい。かといって粉薬にしても、その苦味を嫌って飲むのを嫌がる。何とか薬を飲ませようと奮闘する親は少なくないはずだ。
しかしそれもゼリーに包んでしまえば済むと瑞希は知っていた。あちらから持ち込んだともいえるアイディアは、予想通りまだ幼い子供を持つ母親たちには画期的で大人気だった。
しかもゼリーはその日採れたばかりの新鮮なフルーツの果汁を搾って作った物だから、デザートとして買って行く人も少なくなかった。
また、サービスで提供しているハーブティーも小分けにして商品棚に陳列した。その日のサービスティーの茶葉には『本日のハーブティー』とポップを作って分かるようにして、それ以外のブレンドにもそれぞれの効能が分かるように記載して置いてある。こちらは若い女性陣に人気だった。
では男性客はどうなのかといえば、こちらは通常の薬を買い求める人の方が圧倒的に多かった。中でも湿布薬や傷薬は定番で飛ぶように売れる。家族への土産として店内を見て回る人も少なからずいたが、一家の大黒柱であるという自覚の高い彼らは主に健康な体を維持するための物を選んで買って行った。
次から次へとやってくる客に瑞希は目を回しながらも笑顔で接客していた。ルルは見えないことを活かして店内を見て回ったり、裏方で商品補充の準備をしたりと、やはりあくせく動き回っていた。
休む暇などないくらいの盛況に疲れはどんどん積もっていくが、二人が笑顔を崩すことはない。ありがとうと笑顔で帰って行く客を同じく笑顔で見送って、二人は動き回った。
カランコロンとドアに付けたベルがまた来客を告げる。
「いらっしゃいませ!」
声を揃えて笑顔で出迎えて、二人は仕事に奔走した。
「す、ごいね……!」
「ほんとよ、もう猫の手も借りたいわ!」
話す間も惜しいほど、やることはたくさんある。嬉しい悲鳴とはまさにこのことだ。
薬屋《フェアリー・ファーマシー》は、初日早々大盛況という華々しいスタートを切った。