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 瑞希もアーサーもそれぞれ思うところは多々あれど、時間というものは流れを止めることはない。悩ましげにリボンを見つめていた二人は、考えても埒が開かないと思考を無理やり打ち切った。

 件のリボンは、腐ったりするようなものではないことから、とりあえずの証拠品として保管することになった。

 今後の対策は、現状維持のままだ。これが地球であったなら監視カメラを取り付けるなど手の打ちようもあったが、そんなものがこの世界にあるはずもない。


 (まぁ、もしあったとしても取り付けなかっただろうけど)


 瑞希は彼女の様子を思い返した。

 なにやら強い感情を抱かれていることは間違いないようだが、面と向かっても害意は感じられなかったのだ。

 睨んできたあの目の際には、薄っすらとだが涙が滲んでいた。

 あれを思うと、身に覚えのない事とはいえ胸が切なくなるのは、自分が甘いせいだろうか。

 物思いに耽る瑞希が、ふぅと息を吐く。


 「おや、恋煩いかい?」


 不意にかけられた声に、瑞希は飛び上がった。足をぶつけたカウンターが鈍く硬質な音を立てる。

 痛みに思わず蹲ると、頭上からはくすくすと軽い笑い声が降ってくる。それを八つ当たり交じりにきつく見上げ、すぐに瑞希は背筋を正した。


 「おや、珍しい目を見たと思ったのに」


 残念、と態とらしく肩を上げたのはシドだった。彼が魅惑的な微笑を浮かべると、点在していた妙齢以上の女性たちが俄かに色めき立つ。瑞希はそれをうんざりとした心境で見た。

 そういえば、今日はまだ来ていなかったか。他事のインパクトが強すぎて気づかなかった。

 項垂れたくなる瑞希の心情など露知らず、シドが紳士らしく手を差し伸べる。瑞希は数拍逡巡し、やがてそれを受け入れた。

 シドは一見すれば優男なのだが、存外体を鍛えているようで、容易く引き上げられる。

 瑞希は握った手に目を落とした。まじまじと見つめる、分厚く硬い、大きな手。それはアーサーの手を彷彿とさせた。


 「僕の手が、どうかしたの?」

 「あ、いえ……大きいから、びっくりして。すみません、不躾に」


 そう謝罪する瑞希に、シドは意外そうな、それでいて物申したげにも見える顔をした。


 「…………じゃあ君は、僕と彼と、どっちが好き?」

 「アーサーですね」


 即答だった。

 けれど、シドはそれを予想していたのだろう。だよねぇ、と晴れやかそうに笑う。瑞希は瞬いた。

 それからまた彼が口を開こうとしたところで、出入り口からガン! と歪な音がした。衝撃でドアベルがからからと悲しげな音で鳴る。見てみると、すぐ傍の女性が額を両手で覆っていた。

 瑞希はぎょっと目を剥いた。シドがおや、と暢気に呟く。


 「おねーさん、だいじょーぶ?」


 ライラが心配そうに声をかける。カイルはルルに指示されたのか、氷をハンカチに包んでその女性に差し出していた。

 音からして、相当な強さでぶつけたことは容易に察せられる。

 その通り痛みで身悶えするままの女性に、傍にいた別の女性がカイルに礼を言いながらそれを受け取った。ありがとう、と優しく微笑まれて、三人が嬉しそうに破顔していた。

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