ついに開店!
毎日を忙しく過ごす瑞希には四日という時間はあっという間に過ぎて行った。光陰矢の如しという言葉が頭を過る。一週間の予告期間もとうとう終わりを迎え、ついに開店の日がやってきた。
開店時間までもういくらもない中で、それでも出来る限りのことをしようと瑞希とルルは店内を動き回っていた。
「ミズキ、看板はもう出した?」
「昨日のうちに出したよ。ねえルル、外の様子はどう?」
「どうもなにも、さっきからすごい人よ! まだ開店時間前なのに、もう列ができてるんだから!」
さっきも言ったでしょ! と言うルルに、そういえばそうだったと瑞希は笑った。
乗り合い馬車は本当にルートを組んだようで、来ることは難しいだろうと踏んでいたお年寄りの客までもが店の前に並び、開店の時を今か今かと待っていた。
瑞希とルルは予想以上に多い来客数に驚いて、予定していたよりも慌ただしく開店の準備を進めている。何日も前から準備できる物も多いが、当日にしか準備できないものも少なくないのだ。その一環として、サービスとして提供するハーブティーは作り置きのデキャンターを増やして、追加の用意も多くした。
冷蔵ショーケースもきちんと作動しているか確かめていたところで、時計を見たルルから声がかかる。
「ミズキ、時間よ!」
一層張り上げたルルの声が響く。タイミング良く確認も終わったところで、瑞希は酷く緊張した面持ちで出入り口に向き直った。
磨りガラス越しにも分かるたくさんの人影に緊張が増して、ごくりと生唾を飲み込む。
「ルル、こっちに来て。一緒に開けよう」
呼べばルルはすぐに飛んで来て、その小さな手を扉の取っ手に添えた。
「準備はいい?」
「もちろん! いくわよ? せーのっ!」
ルルの掛け声に合わせてぐっと扉を押す。途端に差し込む光が眩しくて、二人は思わず目を眇めた。
ゆっくり立ち並ぶ人たちの顔を一つ一つ見て、大きく息を吸い込む。
「薬屋《フェアリー・ファーマシー》、開店です!!」
大きな声を張り上げて堂々と宣告すれば、人垣がわっと歓声を上げた。盛大な拍手で迎えられて胸の中が熱くなる。
「さあ、これからが本番よ」
「うん!」
一人、また一人と中に入ってくるお客が、出入り口脇に置いたワゴンから小さな紙コップを持っていく。それを美味しいと談笑の種する人もいれば、ゆっくり店内を見る人もいた。早速会計に並ぶ人まで出始めて瑞希は慌ててレジの前に立った。
「開店おめでとう!」
口々に寄せられる温かい言葉に、瑞希は満面の笑みを浮かべた。