臨戦態勢
食事も終えた昼下がり、一家は万全の体制を整えようと動き回っていた。ちょっとした取り合いはあったが、昼の営業をどう乗り切るかという作戦会議はしっかり行ったのだ。
そもそも午前中てんやわんやの様相となってしまったのは、一度に大勢の客が流れ込んだからというだけではない。瑞希たちが事前準備をしておらず、咄嗟の判断で動くしかなかったというのも大きな一因なのだ。
それゆえに瑞希は前倒しできる準備は全て前倒すことを決めた。
雑踏で店内に撒かれた砂は掃き出したし、午前中に売れた分の商品補充は済ませた。空っぽになったゼリー用のケースには新しく作ったサービスティーを保管して、より早く供給できるようにした。
全員で店内を動き回るのはタイムロスの素だから、役割も分担して配置も決めた。瑞希とアーサーはカウンター、双子は出入り口近く。ルルは天井近くまで飛んで、店内を見渡せる場所で待機だ。補充が必要になったら、アーサーと連携する段取りになっている。
目に見える形で準備が整ってくると、自然と精神的な余裕も生まれてくる。
そうしているうちに、馬の嘶く声が店内にまで聞こえてきた。
「ルル、どう?」
「朝と同じよ、馬車に人がたっくさん」
瑞希は一つ頷いて、ケースから二つデキャンタを取り出した。それをルルが魔法で浮かせて運ぶ。カイルとライラは先に紙コップをテーブルいっぱいに並べて、サービスティーを注いですぐに渡せるように準備した。
数分のうちに、馬車がいよいよ店の前で止まった。賑わいとともに響く、乗客が降車する足音。
そしてドアを潜った人々を、カイルとライラは声を揃えて出迎えた。
「いらっしゃいませっ」
「今日のサービスティーです、どうぞ!」
五人しかいなかった店内は、またあっという間に人で溢れかえった。午前と同様ライラに握手を求める客が列を作るが、その一方でカイルが他の客にサービスティーを渡していくため出入り口での渋滞は防げている。
瑞希は早くも会計にやってきた客に笑顔で接客していた。補充指示がないうちは、アーサーが隣で袋詰めをしてくれる。そのおかげで一人に割く時間が減り、カウンター前にはまだ列ができていない。
今度の出だしは好調なようだと瑞希は内心で胸を撫で下ろした。まだ気は抜けないが、この調子ならと活力が湧く。
それから少しして、いよいよ天井からルルが指示を飛ばし始めた。それを受けたアーサーが商品を補充して、また手が空けばカウンターに戻って瑞希の袋詰めを手伝ってくれる。
客の出入りは依然として多いが、捌ききれないほどではない。
接客と接客の合間で、瑞希は支払いを済ませた客が満足そうな表情で店を去っていくのを喜びいっぱいに見送った。
こうして、《フェアリー・ファーマシー》の午後は上々のスタートを切ったのだった。




