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『蕾』効果

 「へぇ、ハーブティーねぇ…………お、美味いな。土産に買っていこう」

 「いろいろ置いてるのね。ついつい手が伸びちゃう」


 フェスティバル当日と、その翌日。二連休が開けた薬屋 《フェアリー・ファーマシー》は、開店直後から大盛況だった。

 ダグラス老が予見した通り、他所を観光する旅行客が多くいるらしい。

 今年の『蕾』がいる店。加えて、薬だけでなく、健康促進商品を取り扱っているというのも大きいのだろう。

 定期馬車は始発から人に溢れ、その他にも評判を聞きつけて個人で馬車を雇い来店する客さえ少なくなかった。

 家の一部とはいえ店として相応の広さを持つ店内は、今は商品を買い求める客たちでごった返し、犇めき合っている。

 一番人気のフルーツゼリーは一時間足らずで完売してしまった。サービスで配っているハーブティーも、もう何度もルルに魔法で追加して貰っているのにまた底をつきそうになっていた。茶葉も、土産物として買っていく客が多くいる。


 「なにこれ、オープンの日よりも忙しいんじゃないっ?」


 補充してもすぐ無くなっちゃう! と悲鳴じみた声でルルが叫ぶ。まったくだとカウンターで瑞希も激しく同意した。

 初見の客が多いこともあって、健康促進商品や常備薬は飛ぶように売れていて、ルルが言うように補充したそばからまた空になるのだ。

 開店してからしばらく経つが人の波は弱まることを知らず、会計に並ぶ人も途切れてはくれない。

 何より驚くのは、これで客が全てではないということだ。すし詰め状態の今でさえ、外にはずらりと待機客が列を成している。

 ここにまた馬車が着いたら……。考えただけで、瑞希はぞっとして身震いした。


 「大丈夫か?」


 いくつもの箱を抱えたアーサーが心配そうに声をかける。それに瑞希は慌てて頷いて、目の前の客に意識を戻した。

 雑踏で声がかき消されないよう、腹筋に力を入れる。どれだけやることが多くとも、焦りは余計な仕事を増やすだけと自分に言い聞かせた。

 早口にならないように気をつけながらの接客と同時に商品を梱包し、それでも余裕があれば次の準備もしておく。それだけを(こな)す頭の中で、瑞希は今日のスケジュールまで組み立て直した。

 幸い初見の客が多いためか、よく売れているのは常備薬の中でも比較的簡単に調剤できる薬ばかりだ。もともと多めにストック作っていたのを、フェスティバルのこともあってさらに多めに作っておいたのが思わぬ形で功を奏した。


 (お昼は早めに済ませて薬作って……この分なら夜も作ったほうが良さそうね……)


 食事は少なからず作り置きがある。まだ挽回できる範囲だ。

 にっと瑞希の口角が上がる。昼休憩までまだ時間があるが、乗り切れないことはない。この程度の不測の事態、学校では日常茶飯事に起きるのだから。


 「ありがとうございました、またお越しくださいませ。……お次のお客様、大変お待たせ致しました。お品物をお預かり致しますね」


 紙袋を抱える客の背を見送って、新しい客ににこりと笑顔を見せる。そしたまた素早く手を動かして、瑞希は流れるように客を捌いた。

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