いつもと違う朝
翌朝、普段ならまだ薄暗いうちに起き出すはずの瑞希はすっかり上昇ってしまった陽に飛び上がった。隣で寝ていたはずのアーサーはすでに身支度を済ませていて、目を白黒させる瑞希にいつもと変わらない挨拶をかける。
「えっ、えっ? 朝⁉︎」
「朝だな。おはようミズキ」
「あ、うん、おはよう。ん、え、あれ?」
反射で挨拶を返したものの、起きてすぐの頭はあまり情報を処理してくれない。とりあえずと立ち上がろうとすると、ぐらりと瑞希の体が傾いた。
ぼすん! とぶつかる音がする。床とは違う硬さに目を開けると、アーサーが駆けつけて受け止めてくれていた。
「痛むところは?」
「な、い……。あり、がとう」
「いや。落ち着いたら、慌てずゆっくり動け」
アーサーの忠告に、瑞希は頷くだけで精一杯だった。すぐには動く気になれなくて、少しだけベッドに腰掛ける。深呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着けてからもう一度立ち上がった。
身支度を整えて子どもたちの部屋に向かえば、寝起きの悪いカイルでさえしゃっきりと目を覚ましていた。
どうやら瑞希が一番遅くに起きたらしい。珍しいこともあるのね、と感心した風なルルに、瑞希は恥ずかしくて顔を上げられなかった。
しばらくして、全員が起きたことを察してやってきた使用人の案内のもと食事の席に着いた。先に席に着いていたダグラス老にそれぞれ挨拶をすると、嬉しそうに目元の皺を深くされた。
「ダグラス老、賓客はいいのか?」
「男だけのテーブルなぞ華がない。それより私は可愛い子ども達と素敵な朝食を迎えたいのですよ」
明け透けに言い切ったダグラス老に、仮にも賓客をとアーサーが諫言するが、そもそも礼を欠いたのは彼方だと言われてしまうと二の句は継げなかった。
テーブルに座った五人に、起き抜けの紅茶が供される。華やかな香りと淹れたての温度が、眠気の残る頭をすっきりとさせてくれた。
それからは、次々と料理が運ばれてきた。バスケットに盛られたほかほかの焼きたてパンは、指で挟むだけでふわりと柔らかく形を変えた。小さいボウルに盛られたサラダは葉野菜を主体にトマトとクルトン、ドレッシングで彩りが添えられていた。さらにはカリカリに焼かれたベーコンと目玉焼き、フライドビーンズ。朝からオイリーなそれらも、昨日と同じくルルと分けて食べ進めれば丁度良いくらいだった。
そして全員が食べ終わったら、いよいよカイルのお待ちかね。アーサーが煽るだけ煽ったお楽しみのお披露目だ。
そわそわとダグラス老が食後のコーヒーを飲み終わるのを待つカイルと、それをにこにこと見つめるライラ。瑞希たちはもちろん控える使用人たちも、ついついほっこりとして口角を上げてしまう。
「素直で、本当に可愛い良いお子たちですな。余程母君の育て方が良いのでしょう」
「貴殿らしい嫌味だな。……事実だが」
ぼそりと独り言ちるような呟きに、それ見たことかとダグラス老がほけほけ笑う。言い負けたアーサーは低く唸り、誤魔化すようにコーヒーを煽った。




