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部屋割り

 領主邸には貴人を迎えるための迎賓棟とは別に、本館の中にも来客用の部屋がある。瑞希たちに当てがわれたのは後者の方だ。貴賓室というほどでもないとダグラス老は言っていたが、それでも一般市民の家とは比べ物にならないだろうことは想像に難くない。

 瑞希としては一部屋を借りられれば十分と思っていたのだが、アーサーは二部屋を希望した。

 びっくり眼で見る瑞希を、真っ直ぐなアーサーの視線が射抜く。意図あってのことだと目が訴えていた。


 「しかし良かったのかい? いまからでも人数分用意させようか」

 「いえ、そこまでして頂くわけには……。それに、いつもは一部屋でみんなで寝てるんです」


 だから二部屋でも多いんですよ、と瑞希が朗らかな声で言えば、ダグラス老は仰天と目を大きく見開いて、かと思えば大きな声を上げて笑い出した。


 「そうか、そうか!それなら確かに多いか!」


 大笑いするダグラス老に、何故かアーサーが気恥ずかしそうに縮こまる。どうしたの、と双子に裾を引かれてなおさら居た堪れなさそうにするものだから、ルルがけらけら笑っていた。

 もう自分も寝るからとダグラス老が去っていく。それを見送ってから、部屋の間で五人と一匹で輪を作った。

 二手に分かれるなら、部屋割りは男女別が定石だろうか。

 その通りに言いかけた瑞希が、不意に言葉を途切れさせる。隣に立つアーサーが、死角から瑞希の手を掴んでいた。


 (……何か話がある、とか? それとも、子どもたちの一人寝支援かしら?)


 他にも可能性はあるかもしれないが、何か考えがあることは間違いないだろう。大人と子どもで分かれても大丈夫かと念のため尋ねると、自信満々な風にえへんと胸を張って頷かれた。


 「もし何かあったら来ていいからね。……ルル、二人をお願いね。二人も、ルルの言うことをちゃんと聞いてね」


 後半は内緒話のように囁く。声の調子を変えるのは、子どもに話を聞かせるためによく使えるテクニックだ。瑞希の狙い通り三人が真剣な顔つきでしっかり頷いたのを確認して、瑞希はにっこりと三人を部屋に送り出した。

 パタンと音を立てて扉が閉じる。途端、瑞希の顔に僅かな不安が浮かんだ。

 ルルがいるから大丈夫だろうとは思うが、初めての経験には当然緊張が伴う。少しでも落ち着けるように、モチは子どもたちと一緒にしたが、ちゃんと寝られるだろうか。

 心配だと扉を見つめ続ける瑞希の肩に、アーサーがそっと腕を回す。それから促すように背を押され、瑞希はぎこちない笑みを作り足を動かした。

 背後の扉からは、きゃいきゃいとはしゃぐ高い声が微かに聞こえてくる。それに少しだけ安堵して、軽くなった心に歩幅が僅かに広くなった。

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