藪蛇
まさかそんな評価を下されているとは知らないシドは、何かに気がついたようにひとつ瞬きした。
「あれ、でもどうしてここに?」
「娘が『蕾』になったので、その付き添いなんですよ」
ほら、と瑞希が体を少しずらせば、シドの視界にもライラが入る。図らずも目がかち合って、ライラはひゃっと体をびくつかせた。
シドは数度の瞬きを繰り返しながらライラを見て、それから瑞希と見比べるように目を行き来させる。
「…………妹、の間違いじゃない?」
「いえいえ、娘で間違いありませんよ」
「でも、じゃあコンテストの参加条件は?」
「未婚ですから」
嘘でしょ、と半信半疑の面持ちに、慣れたものだと瑞希は苦笑いで受け流した。これ以上踏み込んでくれるなと笑顔の裏で圧を強める。
シドはまだ何か言いたげにしていたが、事情があるらしいと察してくれたようだ。それ以上食いさがることはなく、ライラにも笑顔を向けた。
すると、カイルが苦虫を何匹も噛み潰したような顔をする。
「あんた、お爺さんに用があるんじゃないの」
忌々しそうな棘を含んだ言い方だったが、シドは些事とばかりに微笑んで、「そうだったよ。ありがとう」などと返す。
カイルはますます嫌な気分になって、ぷんとそっぽを向いた。
シドは瑞希とライラにもう一度笑いかけてからダグラス老の許へ戻る。それから二人とも部屋を出て行ったのを見届けて、カイルは苦りきった顔をした。
「あいつ嫌いっ!」
言葉でもはっきりと拒絶するカイルに、アーサーはなんとも言えない顔をしたが何も言わなかった。
瑞希は困った顔をした。カイルがそこまで嫌がる理由も、アーサーが納得顔な理由も、瑞希にはさっぱり見当がつかない。ルルを見れば、驚いてはいるものの否やは無いようだった。
カイルは不満いっぱいの顔のままライラに詰め寄る。
「ライラ、あいつには絶対近づいちゃダメだからな!」
「? なんで?」
ぱちぱち、と瞬きしてライラが首を傾げる。
カイルは「なんででも!」と語気荒く繰り返して、ライラに強引に頷かせてからようやく席に戻った。
「ライラ、わかってないわよね……」
瑞希の視線の先で、ライラは首を捻っていた。なんで怒ってるの、と言いたげな顔をしてカイルを見ている。
あれも一種のヤキモチなのかなぁ、とのんびりした調子で言う瑞希に、ルルが一つ溜め息を吐いた。心の内を代弁するような、ずしりと重い音がした。
「…………俺としては、ミズキにも重々気をつけてほしいんだがな」
「ええ? 私は危ないことは……」
してない、と言いかけた口が止まる。
アーサーの目が凍った。
「後で、詳しく聞く必要があるな」
「そうみたいね。私も是非同席させてちょうだいね?」
不機嫌で重々しい低音の遣り取りに、瑞希があたふたと落ち着きをなくす。失敗したとわかりやすく焦る瑞希に、二人は不自然なほどいつも通りの表情をしていた。




