パレード
本来『蕾』しか乗らない花籠だが、ライラがまだ幼いこともあり、瑞希たちも同乗することになった。その後は領主邸で食事が振舞われることを初めて知らされた瑞希は眉を下げてルルを見た。
「どうかしたの?」
「どうしよう、ルルのご飯……」
妖精は本来人間には見えない。それはつまり、ルルの分だけが用意されないということだ。
帰ってから作るでもいいが、一人だけ違う物を食べるというのは、とても寂しいことだと瑞希は思うのだ。
「私とシェアでもいい?」
申し訳なさそうに尋ねる瑞希に、ルルが嬉しいような困ったような笑みを浮かべる。
「アタシ、ミズキのそういうところ大好きよ」
突然の告白に、瑞希がぱちくりと目を瞬かせる。それにまたルルは鈴の音のような笑い声を上げた。
***
花籠に乗ると、こんもり山と盛られた花びらが幾山も運び込まれていた。それを餌と認識したらしいモチをふわりと浮かせてルルが阻む。積み込まれた花びらは、『蕾』がパレードで人々に向かって投げるための物だそうだ。
そうなるとライラは当然端の方に寄らなければならないため怯えるかと思ったが、不安そうにはしたものの、しっかりと実行委員に頷きを返していた。
「ライラ、高いの平気になったの?」
片割れの怖がりをよく知っているカイルが率直な疑問をぶつける。
ライラは緩く首を振った。
じゃあなんで、と続けて問うと、それはよくわからないとライラ自身も首を傾げる。
二人して同じ方向に首を傾けていると、重そうな音がして、ゆっくりと花籠が動き出した。
二、三歩たたらを踏むことになったが揺れにはすぐに慣れて、両手いっぱいに花びらを掬ったライラが思い切りよくばら撒いた。
そして、ひょい、とルルが指を振る。するとそよそよと柔らかな風を吹かせ、花びらを軽やかに遠くにも運ばせる。ゆっくりと上下して広がる花びらに、眼下の観客たちから歓喜の声が上がった。
パレードを目にした妖精たちは、花籠のライラに気がつくと一目散に飛んできて、口々に祝いの言葉を贈ってくれた。
するとライラがいっそうの笑顔を見せるから、いとけない子供の様子を目にした者は自然と笑顔を溢していく。
「こんなに盛り上がったパレード、滅多にないわよ」
くるくると嬉しそうなルルが歌うように知らせてくれる。
ライラは次々と花びらを撒いた。右に、左に、色とりどりの花びらがそよ風に流されていく。かと思えばふわりと上に吹き上がり、花籠の上から雨のように降り注いだ。
「…………これは、サービス過剰じゃないのか……?」
見えはしないだろうが怪しまれる可能性はある、と冷や汗を滲ませるアーサーに、無言ながら瑞希も同意する。対して、周囲の妖精たちはヘーキヘーキと楽観的だった。いつもよりちょっとだけ華やかにしてるだけだから、と。
実際、大通りに集まっている人々の興奮は高まっていくばかりで、事ある毎に歓声が上がる。
やがて街の半分を巡る頃には不安もすっかり振り切れて、特等席からの眺めを楽しめるようになっていた。
道中見つけた知人たちには手を振られ、見送られる中を花籠が進みゆく。
そうして街の門を潜り抜けると、ようやく人の波が落ち着いてきた。隙間なく密集していた人垣が疎らになり、坂を一つも越える前にぱたりと途絶える。
花びらを撒き切ったライラは疲労困憊していたが、座り込んでもなお笑っていた。
「お疲れ様。すごく立派だったよ」
膝に懐く金色の頭を優しく撫でる。カイルはアーサーの膝に乗せられて、くったりとその体を預けていた。どうやら遅れて乗り物酔いがきたらしい。つんつん、とモチが前足で突いているのを、だぁめ、と窘めたルルが双子に顔を向けた。
「二人とも、水を出すから手でお椀を作って」
言われた通りに双子が手を揃える。そして水を一口含むと、自覚していなかったが思いの外体は水分を欲していたようだ。あっという間に飲み干してお代わりを要求し、ルルはまた指を振るった。貯められた水は多くはなかったが、二杯分もあれば喉を潤わすには十分だった。
双子にハンカチを差し出して、アーサーとミズキも同じように水を貰った。




