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 「もーっ!父さん、置いてかないでよ!」


 両腕でモチを抱えたカイルが息を切らしてやってきた。ぱっとライラの顔が華やぐ。

 アーサーはしまったとあからさまにバツの悪そうな顔をして、悪かったと口をもごつかせた。

 あれほどに頼もしかった人物の弱り切った姿に、周囲の大人は堪らず溢れた笑い声を慌てて忍ばせた。

 そわそわとして二の足を踏むライラの背を瑞希がそっと押してやる。ライラは嬉しそうに飛び出して、勢いよく片割れに抱きついた。


 「わっ⁉︎ ライラ、危ないだろ」

 「危なくないよ、パパも一緒だもん」


 変なカイル、と小首を傾げられて、言い返したいのに言い返せないカイルがぐぬぬと呻く。ルルは照れ臭そうにするアーサーに八つ当たりしていた。小さな手に抓られると痛いはずだが、一応加減はしているようだ。皮膚の違和感に苦笑しながら、アーサーが瑞希に手を伸ばした。

 瑞希も躊躇いなくその手に応える。寄り添い合うと、アーサーが穏やかな声で瑞希に労わりの言葉をかけた。


 「惜しかったな」

 「でも、私はこれで満足なのよ。もともと流されて参加しただけたもの、十分すぎる結果だわ」

 「アタシとしては、瑞希にもあれ被ってほしかったんだけどなぁ」


 小さな不満を漏らすルルに、贅沢だと二人して笑う。ルルは一度だけ頰を膨らませたが、じゃれ合っている双子のところに飛んで行って、同じように戯れだした。

 家族が揃えば怖いもの無しとばかりに明るさを取り戻したライラは、カイルと一緒にちやほやと周囲に愛でられている。まだ緊張はしているようだがライラは可愛らしくはにかみ、なんで俺まで、とぶすくれたカイルは「嬉しいくせに〜」と意地悪く笑ったルルにからかわれて白い肌を赤く染めていた。


 「うん、やっぱりこれで良かったのよ」


 満足げな瑞希に、そうかもしれないとアーサーも思った。私事で剣を抜きたくはない。

 一際強い風が一陣吹いて、飾りつけられた花々が二、三花弁を散らす。そのうちの一枚が、黒髪の上に吸い寄せられるように落ち着いた。


 「アーサーも、花がよく似合うわね」

 「…………それは、喜んでいいのか?」


 判断に困ると訴えられ笑いを誘われながらも、髪についたそれを取ってやる。耳を掠めたせいでアーサーの肩が小さく跳ねた。髪の合間からちらちらと青が見えては隠れる。


 「綺麗ね」


 静かに微笑んだ瑞希に、アーサーが面食らった顔をする。ついで、平坦だった眉間に谷のような皺を刻んだ。


 「ミズキ、俺は男だ」

 「? そうね?」


 いきなり何? と言いたげに見返されて、アーサーは重い溜息を吐いた。聡く知恵も回るのに、どうしてこういう時には鈍いのか。言っても始まらないことはわかっているが、悶々とした物が胸中に巣食う。


 「ミズキー!アーサー!」


 ルルに大声で呼ばれて、瑞希ははいはいと声には出さず子どもたちの方へ足を向ける。その華奢な背に目を向けて、アーサーはもう一度溜息を吐いた。


 「本当にわかってるのか……」


 不安の滲む問いかけは、周囲の騒音に飲まれて消えた。

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