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頼もしい常連さん

「そのくらいにしておいたらどうだ? どう見ても嫌がっているだろう」


 ディックの腕を掴んで止めたのは同じく常連のアーサーだった。止められたディックはアーサーを見た途端嫌そうに顔を歪めた。


「邪魔すんじゃねえよ。せっかく良いところだったのに」

「何度でも言うが、嫌がっているだろう。しつこい男は嫌われるぞ」


 淡々としたアーサーにディックは忌々しいと舌打ちして、言い返す言葉も無く帰っていった。瑞希はホッと安堵の息を吐き、それから慌ててアーサーに向き直る。


「いらっしゃいませ、アーサーさん。いつもありがとうございます」

 「いや……お前も、いつも大変だな」


 僅かに同情を滲ませるアーサーに瑞希は苦笑いして誤魔化す。その横ではルルがまったくよね、と大いに頷いていた。


 アーサーは瑞希にとってとても頼もしい存在だった。いろんな街を旅して回っているという彼は護身術に長けているようで、瑞希にしつこく絡む客を捻りあげたのがそもそもの始まりだ。

 あの出会いの一件以来、アーサーはわざわざこの街を拠点にしてまで瑞希が絡まれているのを見かけては助けてくれる。腕が立つという噂も広まっているから、アーサーが止めに入れば大抵の人は引き上げていくので、瑞希には本当に頼りになる存在だった。


「……店を出すと聞いたが」

「ああ、はい。もともと考えていたんです。あ、露天商も回数は減りますけど続けますよ」

「そうか」


 アーサーはそれからまた口を(つぐ)んだ。相変わらず寡黙(かもく)な人だと思いながら、いつもの薬でよろしいですか? と確認する。アーサーはこっくりと頷いた。 いつもより多めで、と付け加えて。


 アーサーがいつも買っていくのは打ち身や切り傷に効く薬だ。色々な街を放浪(ほうろう)しているから訪問の頻度は多くないが、その分大量に買い込んでいく。今回は用意している中で一番大きな紙袋に詰めても入りきらないので二つの紙袋に分けて、余ったスペースにそうだと薬以外の物を詰め込んだ。


「それは?」

「試作品なんですけど、ハーブティーです。疲労回復の効果があるので、良かったら旅先で飲んでみてください」


 瑞希が詰めたのは、口にした通りハーブティーだ。お店で出そうと作った物で、営業の合間に試飲しようと持って来ていたのだが、せっかくだからとサービスすることにした。

 アーサーは幾らだと尋ねてきたが、お礼も兼ねているからと薬代だけしか受け取らなかった。アーサーはそれに困ったような顔をしていたけれど、お礼です! と瑞希が強く念押ししてようやく、それならと薬代だけを支払って紙袋を受け取った。

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