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『蕾』

 瑞希が広場に戻ると、ステージへとアナウンスが入った。すでに集まっていた他の参加者達の目と観客達の目が一斉に向けられる。

 無言の会釈でシドと別れ、指示された通り花道を歩く。ひらひらと飛び交う妖精たちにおめでとうと囃し立てられて、恥ずかしさに膝が折れそうになった。

 ステージでは先に戻ってきていたライラがルルと一緒に満面の笑みを浮かべて手を振っていた。どうやらライラも勝ち残ったらしい。ルルは念願叶ってホクホクご機嫌顔だった。

 瑞希がステージに上がると、改めて去年の『蕾』から労わりの言葉を述べられた。

 逃げ切れたのは瑞希とライラの二人。これからじゃんけんをして、勝った方が今年の『蕾』に決まる。

 他の融通効かせられる決め方なら良かったのだが、じゃんけんでは小細工などできず気が重くなる。

 せめて長引きませんように、と願いながら臨む一戦。進行役の号令に従い、これだと決めた手を出す。

 思いがけず呆気なく着いた決着にそれでも観客席はわっと湧き上がった。今年の『蕾』が決まったと、今日一番の歓声が上がっている。

 瑞希も心底安心して、おめでとうとライラを抱きしめた。

 ライラはきょとりと瞬いて何度か自分の掌と瑞希とを交互に見ていたが、やがて理解が追いつくとゆるゆる頰を赤らめて、噛みしめるようにきゅうっと目を瞑った。

 歓声を音楽とするかのように、二人の周囲をくるくると妖精達が舞い踊る。ほとんどの者には見えていない美しく華やかな光景は、見える者にとっては何よりの祝賀だった。

 見惚れていると、そっと小さな頭に花冠が被せられる。被せた女性が優しげな笑みを浮かべてライラにロープを渡した。


 「さあ、鐘を鳴らしてね」


 鐘が鳴らされるまでがコンテストだ。渡されたロープをえいっ!とライラが力一杯引っ張った。

 カーン!と終わりの鐘が鳴る。

 余韻を掻き消すように、観客席はいっそう湧き上がった。

 手を振ってあげて、と耳打ちされるが、恥ずかしがったライラは瑞希の肩口に顔を埋めてしまっている。仕方のない子、とぐりぐり額を押し付けてくるライラに苦笑を浮かべて提案した


 「じゃあ、アーサー達に振ってあげるのはどう?」


 それならできるでしょう?

 瑞希の柔らかな声に、おずおずとライラの顔が上がる。真っ赤な顔が少しだけ綻ばせてゆっくりと観客席を見回すと、妖精達が一箇所に集まりだした。

 小さな手のひらが控えめに左右に揺れる。

 それが見えたかはわからないが、カイルが両手を大きく振っているのがステージから見えた。


 「ルルちゃん、どう? 似合う?」

 「もちろん!とっても素敵よ、お姫様みたい」


 午前中憧れるように口に出していた言葉を贈ってやると、ライラはよほど嬉しいのかぴょんぴょんと飛び跳ねた。その度に花冠も頭の上で跳ねていた。


 「ルル、ありがとうね」

 「あら、私は何もしてないわよ? ライラの強運の結果よ」


 あれは壮観だったわ、と思い出してクスクス笑うルルに、いったい何があったのかと聞きたくなる。

 後で聞いてみようと決めたところで、広場の隅の方にシドの姿を見つけた。人目を偲ぶように物陰に寄り、傍の人物に話しかけている。あるいは、何かを指示しているようにも見えた。


 (どういう人なのかしら……)


 他人の秘密を暴く趣味はないが、なんとなく、気に留め置いた方が良い気がした。

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