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小路にて

 樹上の仔猫を見上げながら、瑞希は困りきっていた。仔猫は鳴くというよりは泣くという方が正しいと思えるほど震えていて、助けてあげなきゃという気持ちが膨らんでいく。

 しかし周りを見回しても人影はなく、誰かに助けを求められそうにない。もし妖精が通りがかってくれたなら魔法で助けて貰えただろうけども、無いものを頼ることはできないのだ。


 「………………よしっ」


 瑞希は覚悟を決めた。パチンと両頬を軽く叩き自分に喝を入れる。それから念のためともう一度人影がないことを確認して、一番低い枝に手を伸ばした。何度か下に引いてもびくともしないことを確認して、ゴツゴツした木肌に足をかけていく。

 木登りの経験はなかったが、太い枝の多い木だったから助かった。慎重に進んで、時々少し降りてを繰り返す。そうしているうちに細枝や葉で切って、白い肌に細く赤い線が引かれた。

 半分ほど登れたところで、瑞希は少しだけと手を止めた。木登りは存外体力を消耗するようで息が上がっている。筋力のない両腕は早くも強張りかけていて、僅かに痙攣している筋を優しく解した。

 見上げれば、背伸びすれば仔猫まで届きそうな距離にまで近づけている。怖がらせないようにそろりそろりと手を伸ばすと、仔猫は遠退きこそしないものの小さな体を縮こまらせてしまった。

 ちょいちょいと指先を動かして興味を引こうとするも、警戒心露わに身を引かれてしまう。それでも根気強く奮闘していると、しばらくして慣れたのか、ようやく仔猫が鼻先を寄せてきた。ふんふん、と掠めるように触れてくるのが擽ったい。

 仔猫は興味を持ってくれても、なかなか気を許してはくれなかった。手繰り寄せようとするよりも早く身を引いて、また近づいてと焦らしてくる。

 木の幹に手をついて体を支えているが、背伸びし続けるのは結構辛い。足が震え出して、一度踵を下ろそうとした時、ようやく仔猫が瑞希の手に懐いた。

 小さな体を腹の下に入れて持ち上げる。仔猫は四肢を暴れさせたが、腕の中に入れるともぞもぞ動いて座りの良い体勢を探し出した。


 「降りるから、ちょっとだけ大人しくしててね」


 仔猫を片手で抱いて、もう片方の手で体を支える。すぐ下の枝に足を伸ばして、慎重に体をずらして一本下に降りた。片手では無理な時は仔猫を枝に座らせて、先に降りて抱き下ろす。最後には一緒に飛び降りて、よろめきながらもなんとか着地した。

 もう無茶しちゃだめよ、と仔猫を放すと、小さな影は一目散に走り去っていく。それをなんだかなぁ、と見送っていると、曲がり角から黄色い襷の鬼役の姿が見えた。

 さっと身を翻し、仔猫の後を追うように小路の奥へと入り込む。追ってきているかはわからないが、早く離れた方がいいだろう。

 勢いを殺さず角を曲がると、一拍遅れて体が跳ね返った。どさりと尻を打ち付けて倒れこむ。ぶつかったのだと、やや遅れて理解した。

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