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コンテスト、開幕

 自分で作るのも嫌いではないけれど、他人の作ったご飯もやはり美味しい。

 のんびりながらも変わらないスピードで食べ進めていく瑞希達とは対照的に、双子は意外なほどよく食べた。それでも並の子供と比べたらまだまだ少ないのだろうが、いい兆候だと安心した。

 食べ終えて一息ついた頃には、アーサーが予見した通りコンテストに向かうにはちょうどいい時間になっていた。

 双子は食べ過ぎて苦しそうに腹を撫でていた。ルルも、小さく唸りながらモチの上に寝そべっている。動けないほどでは無いと彼らは言うが、ゆっくり歩こうかとアーサーはコーヒーを啜りつつ苦笑した。

 瑞希がひとり席を立って先に会計を済ませに行くと、マリッサにいい笑顔で出迎えられた。

 提示されたのはサービスというにはいささか割り引かれすぎた金額だった。これはさすがにと物申そうとしたところで、マリッサは瑞希が口を開くより早く釘を刺した。


 「コンテスト、期待してるからね」


 ひくり、と瑞希が頰を引きつらせたのは無理もないことと言えるだろう。ぐっと喉元までせり上がった言葉をなんとか飲み下して、曖昧に笑ってごまかした。

 席に戻るとアーサーはコーヒーを飲み終わり、子供達はまだ満腹の余韻に腹を撫でているところだった。


 「どう、いけそう?」

 「ん、へーきー」


 少々間延びさせて答えたカイルが緩慢な動作で背を正し、ぴょんと椅子から飛び降りる。

 店の外にはまだ席待ちの客が長蛇の列を作っていたが、さっきまでは見かけたコンテスト参加者の姿はなかった。

 次の客とすれ違い店から出れば、道行く人々は一様に広場を目指している。その列に自分達も加わって、いよいよかと瑞希は僅かに足を重くしたが、ちらりと盗み見たライラの楽しげな様子に少しだけ心が軽くなった。

 二度目の広場は花道も見えなくなるほど人が多く集まり、コンテストの開幕を今か今と待ち望んでいた。


 「あ」


 小さくアーサーが声を上げる。長身の彼には、ステージに昨年の『蕾』らしき花冠の女性がゆったりとした足取りで登場してくるのが見えていた。

 女性の姿を合図にするように、ゆっくりと騒めきが静まっていく。その隙に瑞希とライラは人の波を抜け出した。コンテストの参加者は、開始前に再度運営のテント近くに集まるように説明を受けている。

 念のためルルにもついてきてもらって目的のテントへ行くと、腕章をつけた男性が出迎えてくれた。実行委員のひとりらしい。

 促されるまま並んだ参加者の列には、数十人では済まないだろう人数がいる。こんな大人数で選りすぐるのかと思うと、正直勝ち残れる自信は持てなかった。

 ステージでは女性がコンテストの趣旨を説明していた。

 今年の『蕾』は鬼ごっこで決めるようだ。番号札を隠したり、他者への傷害行為を働いたら即失格。鐘が鳴るまで捕まらなかった者、全員が捕まった場合は最後に捕まった者が『蕾』となる。複数人が逃げ切った場合は潔くじゃんけんの勝者が『蕾』らしい。

 未婚が条件である必要はあるのだろうかと考えていたところで、瑞希はあれ、とおかしな点に気がついた。


 「なんでここまで聞こえてるんだろ……」


 すり鉢構造は高い音響効果があると昔同僚に聞いたことがある。

 この広場も確かにすり鉢状ではあるが浅く、よく聞こえるほどの効果があるとは思えなかった。

 首を傾げる瑞希に、傍にいた実行委員が種明かしをした。


 「彼女の声を後ろの反射板が伝えてるんだよ」


 詳しく聞くと、糸電話の原理を利用しているらしかった。ここからでは見えないが、彼女の手にはマイク代わりのカップが握られていると教えてくれた。

 コンテストは昨年の『蕾』が鳴らす鐘の音で始まり、今年の『蕾』が鳴らす鐘の音で終わる。ステージ上の女性が、徐に鐘から伸びるロープを握った。

 ちらり、瑞希が目配せする。ルルは無言で頷いた。

 ────カァーン!

 澄んだ音が力強く響く。余韻を掻き消すように、観客から大きな歓声が上がった。

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