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昔話

 ちらちらと視線を集めながら、瑞希たちはようやく喫茶店の一席に腰を落ち着けた。通りすがろうとしたところを、見かけたらしいマリッサに半ば引きずられるようにして連れてこられたのだ。老体ながらに活発なことだとぼやいたアーサーに、瑞希は失礼を承知しながらも内心で激しく同意した。

 会ったばかりの頃は、彼女にこんな一面があるなんて思いもしなかった。心優しい穏やかなご老女だと思って疑いもしなかった。


 (マリッサさんなら、私が自分でお店を持つって決めなくてもあの手この手で仕向けてたんじゃないかしら……)


 そんなことを思ってしまうほどに、彼女はとにかくパワフルだった。

 以前薬屋で聞いた通り店内は客で溢れかえっていて、どこの席でも早めの昼食を始めている。その喧騒を物ともしないで、彼女は料理を完成させては提供に行けと檄を飛ばしていた。

 こんなに騒がしい食卓を始めて経験する双子は目を白黒とさせて、落ち着かなそうに縮こまるのでアーサーが苦笑した。


 「ほら、お前達も選ばないと。空腹のままコンテストに行くのか?」


 食べ終わる頃にはいい時間になるぞ、と言われて、双子が慌ててメニューを覗き込む。

 確定しているのはモチ用のサラダだ。あとは、食の細い二人では一人前も食べきれないということもあり、幾つかの料理を頼んで分け合うことにした。

 走り回る店員を捕まえて注文すれば、彼は会釈もそこそこにまた忙しなく走り去って行き、叩きつけるように伝票をマリッサに通していた。


 「そういえば、外でご飯って久々よね」

 「たしかに。露天商の頃は、帰りに寄って済ませたりしてたのにね」


 まだ一年も経っていないのに、随分と昔のことのように思えてしまうから不思議なものだ。

 ルルと瑞希が懐かしんでいると、「ろてんしょー?」と二対の目が二人に向けられた。たどたどしい言い方に、聞いていた三人の目が細くなる。


 「露天商、よ。お店を持つ前は、広場で今日の出店みたいな感じでお薬を売ってたの」

 「その前は薬草を薬問屋に売ってたのよ」


 代わる代わるに明かされた母の過去に、へええと双子が関心を持つ。父は知っていたのだろうかと目を向けてみると、そんな時もあったなと独り言ちているのが聞こえた。


 「パパとママは、いつ初めましてしたの?」

 「露天商の頃よ。すごく困っていたところを、アーサーが助けてくれたの」


 おおっ、とつぶらな目が輝く。王子様と一緒だ、とはしゃぐライラに、アーサーが言葉を詰まらせた。何と返していいのかわからずに目を右往左往させる父に、カイルがじいっと注視する。

 その間にも店を持つに至った経緯を語っていると、まずはサラダがやってきた。どっさり山盛りのサラダを目にした途端に、おとなしくしていたモチがテーブルに前足をかけて伸び上がる。フスッ!フスッ!と鼻を鳴らして強請る姿に、食いしん坊だと笑い声が上がった。


 「さて。じゃあモチも限界みたいだし、頂きましょうか」


 からかい交じりに音頭をとれば、賛成と四人の声が綺麗に揃った。

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