コンテストの前に
それからも、五人は出店をたっぷりと見て回った。時折焼き菓子を買っては摘んで、ごった返す人波に揉まれている間には何度も顔見知りの妖精たちと鉢合わせた。解放的な雰囲気に影響されたのか、彼らはいつも以上に気分を高揚させていて、買い込んだ菓子を分けると大層喜ばれた。
第一の目的地だった広場は、まだ催し物が始まっていないからか比較的人が疎らだった。『蕾』のコンテストはここで行われる。ステージには中央に鐘が吊るされ、そこを起点とするように集められた花々が花道もろとも鮮やかに彩っていた。
ステージの奥には会場の装飾にも劣らない華やかな飾り付けを施された山車があった。おそらくあれが話に聞いた花籠だろう。ライラがキラキラとした目を花籠に向けた。
「わぁっ、絵本に出てくるお姫様の馬車みたい!」
「あれ、どうやって動かすの? 馬?」
大人の背もゆうに越す高さのそれに、双子が興味津々で見上げる。ルルが「人が大勢で押すのよ」と教えると、双子はお揃いの目を丸くして驚いた。
その様子をくすくすと見守りながら、ふとアーサーが気づいて瑞希に耳打ちする。
「ライラは乗れるのか? 馬の高さでも怖がっていたのに」
「下を見ないとか、なんならルルとモチにお願いしてみるとか?」
小首を傾げる瑞希になるほどと納得して、アーサーがモチの頭をわしわしと撫でる。頼んだぞ、と真面目な顔をして言うものだから、まだ始まってもいないのに、と瑞希は思わず苦笑した。
ステージの近くには運営部があり、瑞希とライラはそこでコンテストの手続きを済ませた。手続きといってもエントリー自体はマリッサが済ませているので、ただ参加者の目印である番号札を受け取っただけだ。
「コンテストまでまだ時間があるから、今のうちに食事を済ませておくか?」
「そうね。きっと混んでるだろうし、早めに行ったほうがいいかも」
菓子を摘みはしたものの、腹が満たされたわけではない。店に入るなら、人々が出店に注意を向けている今がチャンスだろう。
子供たちに食べたい物はあるかと問えば、特に思い当たらないようで三人揃って首を捻る。真似するようにモチもこてんと首を傾げるので、よく似たなぁとつい感心してしまった。
しかし、三人で悩んでみても、文殊の知恵とはいかないらしい。
それならばと、とりあえず飲食店の並んでいる通りに向かうことにした。
人混みではぐれないようにとまた手を繋ぐ。番号札のせいで目立つせいか、すれ違う人々に微笑ましげな目を向けられた。
少し歩くだけでも、何人ものコンテスト参加者とすれ違った。地元の者はともかく、他所からの参加者は着飾った若い娘が多い印象だった。中にはドレスを着ている者もいて驚いていると、フェスティバルで好成績を収めると縁談に有利らしいと教えられた。
顔見知りの人たちとはそうやって情報交換をしたり、お互い励ましあったりして終わるのだが、瑞希を知らない参加者たちは一様に瑞希に怪訝の目を向ける。『未婚女性』が参加条件なのに、と口よりも如実に眼差しが語っていた。
あまりにも寄せられる目に怯みかけた瑞希の手が、少しだけ力強く握られた。
見上げれば、彼女たちとは違う温かな眼差しが優しく細められる。
「……ありがとう」
こっそりと呟けば、アーサーは大したことではないと緩やかに首を振った。




