困り事にも福がある
「父さん、決まったよー」
とことことやってきたカイルが、選びに選んだのだろうアイテムを見せてくる。頭上に掲げられたそれは銀色の輪と、透明の中に虹を宿す石が輝いていた。取り立てて珍しいものではないが、自分達が嵌めている指輪に似たデザインだった。
それに、とアーサーの目が埋め込まれた石に引き寄せられる。小粒ではあるが、それは確かに宝石だった。
「ほう、オパールか。良い物見つけたな」
「うんっ、頑張った!」
えへんと胸を張るカイルの頭を撫でていると、店員が声をかけてきた。
「ご家族ですか? 息子さん、良い目をお持ちですね」
笑顔の店員はカイルの様子を見ていたらしい。とっても真剣に見比べてましたよ、と語る柔らかな声音に、カイルが頰を赤らめてアーサーの後ろに隠れた。勢い余ってか、ごつんと額をぶつけられる。
アーサーはくすくすと笑う店員の気を逸らすようにオパールの指輪と自分が選んだ髪紐を渡して支払いを済ませようとした。
店員の目が、感心したように少し細められる。
「宝石、お好きなんですか?」
「いや、特には。何故?」
「随分と目が肥えていらっしゃるな、と。偽物と疑って手を引く人ばかりでしたし」
偽物と思えば確かに手出ししない値段だが、だからこそ子供が手に取ったことに驚いたらしい。
けれど、きちんと見ればわかるものだとアーサーは思う。
店員がアーサーの手元に目を向けた。その手にあるものも、質の高い石が使われている。
親譲りなんですね、と称賛する彼女には喜びが溢れていて、アーサーは誇らしくなった。
「カイル、渡しておいで」
ちらりと端目に捉えた女性陣はようやく満足いく物を選び出せたらしかった、今度はルルだと意気込む声を耳にして、アーサーが冷や汗を滲ませて小さな包装紙に包まれたそれを渡してやる。カイルは一目散に駆けていった。
喧騒に紛れて声は聞こえないが、配達は間に合ったらしい。人垣の合間にルルが感動に咽び泣く姿が見えた。
「アーサー、お待たせ」
「ああ。……いや」
気づいてすぐに取り繕うと、瑞希はごめんなさいと苦笑いした。選び抜いたのは三つ。それを店員に渡したところで、アーサーも瑞希に小包を渡した。
「アーサー?」
「せっかくだから、な」
見上げてくる瑞希に気恥ずかしくなって思わず視線を逸らす。
瑞樹は手元に視線を落としていたが、やがてゆるゆると顔が色づいていく。驚きに薄く開いていた口も弓なりになった。
「ありがとう、アーサー。大切にするわ」
小さな小包をまるで宝物のように胸に抱くと、アーサーは堪らず顔を隠した。そうして慌てて顔を背けたが、耳まで赤くなっていたことに瑞希はちゃんと気がついていた。




