表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/478

いただきます!

 「紙鍋っていうの。私の故郷の手法なのよ」


 いつかに旅行先で見た時、瑞希自身も今の面々のように驚いたものだ。

 しかしそのおかげで強く記憶に残り、湯が紙を冷やすため燃焼しないというこの手法なら、鍋が無くても煮込み料理が作れると思いついた。

 紙なら持ち歩いても嵩張らず、どこでも調達することができるから、荷物が増えることはない。

 どうだと自慢げに胸を張る瑞希に、アーサーは信じられないと心を震わせた。

 材料を投入しコンソメを加え、しばらく煮込む。

 湯気とともに立ち上る良い香りが集落中に広がった頃、ようやくコンソメスープは完成した。三つの紙鍋で作ったから、妖精達に配るにも十分な量がある。

 空になった紙鍋は焚き火に放り込んで料にすればゴミも残らない。

 アーサーは完敗とばかりに両手を上げた。


 「ほら、せっかく温かいんだから、冷めないうちに」


 美味しいわよ、と食べる前から断言する瑞希の後押しをするように、人集りから絶賛の声が上がった。その中には子供達のものも含まれていて、熱々と涙目になりながらも笑顔を浮かべている。

 アーサーはやや緊張した面持ちで、ようやくスプーンを手に取った。

 じゃがいも、にんじん、レタス、ウインナー。ありふれた具材のスープは、とても優しい味がした。


 「どう?」

 「…………悪くない」


 憮然と返した呟きに、素直じゃないんだからと瑞希が笑う。まったくだと、アーサー自身もそう思った。

 じっくりと煮込んだ野菜にはしっかりと味が染みていて、家で食べるのと遜色ない出来に仕上がっている。

 休めること無く食べ進めていくアーサーを満足そうに見つめて、瑞希も自分の分に口をつけた。

 

 「うん、美味しい」


 嬉しそうに笑う瑞希に、アーサーは柔らかな微笑を浮かべた。





 アーサーは何故か広場の端の方に腰を据えて、スープを味わうでもなくぼんやりと周囲の様子を眺めていた。

 その隣に、瑞希が寄り添うように腰を下ろす。冷え切った地面に身震いするのを見て外套の中に入れてやれば、恥じらいながらも礼を言われた。


 「はじめは、何の嫌がらせかと思ったぞ」


 ぽつりと零したアーサーに、ごめんなさいと瑞希が苦笑する。

 強引だった自覚はある。それでも強行突破した。我が強いと自分でも思う。


 「口煩くてごめんなさいね」

 「いや。俺のためを思ってくれてることは、ちゃんとわかってる。それに、存外悪いものでもなかった」


 くつくつと喉奥を鳴らすアーサーに、瑞希はそっと胸を撫で下ろした。

 アーサーは目尻を下げて、子供達や他の妖精達の様子を眺めていた。

 いつも瑞希が楽しそうに料理している理由が、今日初めてわかった気がする。自分が作ったものを食べてもらえる。そして美味しいと言われるのは、とても嬉しい。

 穏やかに微笑むアーサーに、ほっこりと胸が温かいもので満たされる。瑞希はやっと顔を上げた。


 「あら、」


 瑞希の声に、アーサーの目も上に向かう。

 冷たいはずの夜空には、満月と、力強く輝く無数の星々が何にも邪魔されず存在を主張していた。

 降ってきそうな、満天のとはこういう夜空をいうのだろう。


 「綺麗ねぇ」


 惚れ惚れと見上げる瑞希に、アーサーはしかと頷いて答えた。


 「あぁ、綺麗だ」


 甘く優しいその響きを、瑞希だけが聞いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ