表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/478

なぞなぞ

 妖精の集落へは、夕食に合わせて宵の口頃に向かうことになった。双子は久しぶりにおじいちゃんに会えるとはしゃいだ。今日の馬のことを話すつもりらしい。

 アーサーには、練習のことは言わないことにした。言ったら、せっかくのやる気が萎えてしまいそうだったからだ。


 「そんな配慮するなら、家で練習させてあげればいいのに」

 「これでいいのよ。集落でなら、野宿でも作れるって証明もできるもの」

 「そういえば、そんなこと言ってたわねぇ」


 ルルは少し前のことを思い出した。あの時はスープをと言っていたが、どんな風に作るのかは知らされていない。

 網を使うということはわかっているのだが、スープなのにどうして網が必要になるのかは聞かされていないのだ。訊いてみても、瑞希は「きっとびっくりするわよ」といたずらっぽく笑うだけで教えてくれなかった。

 瑞希は今も、うぅーんと首を傾げるルルをくすりと笑いながら、あれこれと荷を固めていく。

 街で買い込んだ菓子や酒類。それとは別に、じゃがいも、玉ねぎ、にんじん、コンソメ。それから、わざわざ特注した網を三つ。


 (作るのはコンソメスープみたいね……)


 けれど、鍋がない。指摘しても、荷物が増えちゃうからと瑞希は微笑とともに不要と判じた。スープに鍋は必須だろうに。

 昼寝から起きたモチが荷に前足をかけて伸び上がる。にんじんに齧り付こうとしたところで、通りかかったアーサーが摘み上げて阻止した。


 「昼食は済ませたばかりだろう」


 びよんと首っぽいところの皮が伸びて、短い四つ足がぴょこぴょこと動く。おそらく抵抗しているつもりなのだろう。

 アーサーはそれをなんとも言えない顔で見下ろした。


 「手伝えることはあるか?」

 「ありがとう。今ちょうど終わったから、大丈夫よ」


 ぽん、と瑞希が傍の荷を叩く。中身は知らないが、いつもより多いことはアーサーにもわかった。

 ふいに、ルルがアーサーの前で止まる。座れるようにと空いている手を差し出すと、そこにルルが腰かけた。

 ルルがアーサーに甘えることは少ない。何か話があるのだろうと思って言葉を待つが、ルルは何やら考え込んで話し出す気配はなかった。

 様子を見る限り、深刻な悩みではないらしい。クイズやテーブルゲームをしている時の顔に似ていた。耳をすませば、「鍋がない」と何度も繰り返している。

 アーサーは一呼吸の間を置いて、当初の予定通りに踵を返した。向かうは庭先、薬草畑。

 その途中のテラスで、双子がぽかぽかと暖かな日差しを浴びて微睡んでいた。


 「水やりは終わったのか?」

 「ん……あっ、パパ」


 くしくしと目を擦ってライラが意識を浮上させる。カイルは眠気に抗ってはいるが劣勢に立っているらしい。

 ライラにルルとモチを渡して、空いた手でカイルの頭をぐしゃぐしゃと掻き撫でる。外的刺激が加わって、くっつきかけていた目蓋が薄っすらと空いた。


 「あぇ……? とーさん?」


 寝起きの舌足らずな声に、仕方のない奴だとアーサーが苦笑う。ぷくぷくほっぺを揉むように抓ると、「あぅ」と気の抜ける鳴き声が上がった。


 「薬草の世話が終わったなら、本でも読むか? ミズキの土産の中に新しいのがあったろう」

 「読んでくれる?」

 「俺が? ……まあ、いいが……」


 強請るような二対の眼差しに、否とは言えず目尻が下がる。それを承諾と理解して、カイルが絵本を取りに走った。

 楽しみだね、とライラがモチに話しかける。

 読み聞かせは苦手なんだが、と内心で零しながらも、やるしかないとアーサーは苦笑いして腹をくくった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ