なぞなぞ
妖精の集落へは、夕食に合わせて宵の口頃に向かうことになった。双子は久しぶりにおじいちゃんに会えるとはしゃいだ。今日の馬のことを話すつもりらしい。
アーサーには、練習のことは言わないことにした。言ったら、せっかくのやる気が萎えてしまいそうだったからだ。
「そんな配慮するなら、家で練習させてあげればいいのに」
「これでいいのよ。集落でなら、野宿でも作れるって証明もできるもの」
「そういえば、そんなこと言ってたわねぇ」
ルルは少し前のことを思い出した。あの時はスープをと言っていたが、どんな風に作るのかは知らされていない。
網を使うということはわかっているのだが、スープなのにどうして網が必要になるのかは聞かされていないのだ。訊いてみても、瑞希は「きっとびっくりするわよ」といたずらっぽく笑うだけで教えてくれなかった。
瑞希は今も、うぅーんと首を傾げるルルをくすりと笑いながら、あれこれと荷を固めていく。
街で買い込んだ菓子や酒類。それとは別に、じゃがいも、玉ねぎ、にんじん、コンソメ。それから、わざわざ特注した網を三つ。
(作るのはコンソメスープみたいね……)
けれど、鍋がない。指摘しても、荷物が増えちゃうからと瑞希は微笑とともに不要と判じた。スープに鍋は必須だろうに。
昼寝から起きたモチが荷に前足をかけて伸び上がる。にんじんに齧り付こうとしたところで、通りかかったアーサーが摘み上げて阻止した。
「昼食は済ませたばかりだろう」
びよんと首っぽいところの皮が伸びて、短い四つ足がぴょこぴょこと動く。おそらく抵抗しているつもりなのだろう。
アーサーはそれをなんとも言えない顔で見下ろした。
「手伝えることはあるか?」
「ありがとう。今ちょうど終わったから、大丈夫よ」
ぽん、と瑞希が傍の荷を叩く。中身は知らないが、いつもより多いことはアーサーにもわかった。
ふいに、ルルがアーサーの前で止まる。座れるようにと空いている手を差し出すと、そこにルルが腰かけた。
ルルがアーサーに甘えることは少ない。何か話があるのだろうと思って言葉を待つが、ルルは何やら考え込んで話し出す気配はなかった。
様子を見る限り、深刻な悩みではないらしい。クイズやテーブルゲームをしている時の顔に似ていた。耳をすませば、「鍋がない」と何度も繰り返している。
アーサーは一呼吸の間を置いて、当初の予定通りに踵を返した。向かうは庭先、薬草畑。
その途中のテラスで、双子がぽかぽかと暖かな日差しを浴びて微睡んでいた。
「水やりは終わったのか?」
「ん……あっ、パパ」
くしくしと目を擦ってライラが意識を浮上させる。カイルは眠気に抗ってはいるが劣勢に立っているらしい。
ライラにルルとモチを渡して、空いた手でカイルの頭をぐしゃぐしゃと掻き撫でる。外的刺激が加わって、くっつきかけていた目蓋が薄っすらと空いた。
「あぇ……? とーさん?」
寝起きの舌足らずな声に、仕方のない奴だとアーサーが苦笑う。ぷくぷくほっぺを揉むように抓ると、「あぅ」と気の抜ける鳴き声が上がった。
「薬草の世話が終わったなら、本でも読むか? ミズキの土産の中に新しいのがあったろう」
「読んでくれる?」
「俺が? ……まあ、いいが……」
強請るような二対の眼差しに、否とは言えず目尻が下がる。それを承諾と理解して、カイルが絵本を取りに走った。
楽しみだね、とライラがモチに話しかける。
読み聞かせは苦手なんだが、と内心で零しながらも、やるしかないとアーサーは苦笑いして腹をくくった。




