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天国と地獄

 食事が終わると、ルルが本領発揮と魔法を使った。

 宙に浮いた大きな水球の中で食器が踊る。大きな汚れを落とされた食器は泡球に飛び込んで、また水球に入って泡を落とす。洗い終わった食器が出てくると、ふわりと風がテーブルまで運んだ。

 テーブルに置かれた食器達を双子が乾拭きして、ぴかぴかになったものをアーサーが棚へと戻していく。

 数が多いと面倒にも思うものだが、双子は毎日楽しそうにしていた。

 それは自分達でもできるお手伝いであるということもあるが、もうひとつの理由がルルの魔法にあった。

 くるくると宙を舞うルルの姿も、踊る食器達も、毎日見ているのに飽きがこない。それを見ながらこなしていく自分の仕事は、子供達のちょっとした楽しみのひとつだった。

 それに、お手伝いの後にはご褒美があった。

 養母が作ってくれる美味しいおやつも大好きだが、それ以上に大好きなものが双子にはある。

 今日も、お手伝いが終わった双子は他には目もくれず、全力で養い親に抱きついた。

 両足にそれぞれにぶつかるようにされてはさすがのアーサーもよろめいたが、その表情には温もりが満ち満ちていた。

 アーサーがその場に膝を付く。はじめは何やら抵抗を感じていたらしかったが、それも今ではすっかり消えていた。

 しゃがんだアーサーの両腕に子供達が力強くしがみつく。それをしかと確かめ抱えて、アーサーは立ち上がった。

 いかに成人男性といえど、本来子供二人ともなれば抱え上げるのは難しいはずだ。しかし双子は歳の割には小さく軽く、対してアーサーは人並み以上に鍛えている為それを容易く成し遂げる。

 養父に抱え上げられて、双子はきゃらきゃらと華やいだ歓声をあげた。落ちる心配なんて露ほどもしていないのに、きゅうっと腕を抱く力を強くする。

 双子なりの甘え方を穏やかな心境で受け入れていた。

 対して、ルルが甘えるのは専ら瑞希に対してである。

 妖精には年齢という概念がない。それでも年頃になると恥じらいが生まれるようだ。双子と同じ甘え方はできず、同性の瑞希に向かう。

 ルルに抱きつかれて、瑞希は擽ったそうにしながら小さなその頭を優しく撫でた。手元の鍋の中では、捥いだばかりの果物が甘く煮詰められている。湯気の立ち上るそれをスプーンに掬って、味見とルルに差し出した。


 「ん〜っ、甘ぁい」


 堪らないと頰に手を当てて堪能するルルに、それは良かったと相槌を打つ。


 「これは売るの?」

 「ううん、おやつに使おうと思って。今日はレアチーズケーキよ」


 爽やかな酸味の香るチーズと甘酸っぱいフルーツとの相性は抜群だ。

 ルルは楽しみだと今からはしゃいだ。


 「あ、そうだ。急なんだけど、今夜は久しぶりに集落に行かない? その分のお土産も買ってきてあるの」

 「素敵だけど……本当に急ね。アーサーの練習はいいの?」

 「集落でやっちゃえば問題ないわ」


 にっこりと笑って事もなさげに言う瑞希に、ルルは一転憐憫の念で心を埋めた。

 そうとも知らないアーサーは、双子を両腕に抱えてご満悦である。


 「…………お手柔らかに、ね……」


 せめてもの情けとかけた言葉に、瑞希ははてと小首を傾げた。

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