ブーメラン
「そういえば、欲しいものは手に入ったのか?」
アーサーに尋ねられて、瑞希はニンマリとしながら頷いた。
「オーウェンさん……ダートンさんのお弟子さんがやってくれたんだけど、凄かったのよ」
大きな手が細かな細工を施していく様は、今思い出しても感嘆の息が溢れる。
見るからに意識を横向けた瑞希に、アーサーは腹奥が熱を持つのを感じた。
「もう受け取ったのか?」
「ええ。どうして?」
「いつ使うのかと思ってな」
アーサーの答えに瑞希はぱちんと目を瞬かせて、それから嬉しそうに破顔した。
笑われたアーサーは薄っすらと眉間に皺を寄せる。
「ふふ、ごめんなさいね。乗り気になってくれたみたいだから、嬉しくて」
勢いで決めてしまったことだから、心では少なからず負い目があった。アーサーの役に立つことだからと自分に言い聞かせていたが、少しでも興味を持って貰えたのなら、浮かばれるような気がする。
安堵の笑みを浮かべる瑞希に、アーサーは胸の痞えを下ろした。
「ミズキは優しすぎるな。他人事ばかり気にする」
いつか危ないことに巻き込まれないか心配だ。
真面目な顔をして苦言を呈するアーサーに、虚を衝かれた瑞希は思わず吹き出した。
瑞希だって、誰彼構わず心を砕いているわけではない。自分の腕は二本しかないということをきちんと理解している。
「私が優しいと思うのは、アーサー達が私にとって大切だからよ」
面食らったアーサーが、ふいと顔を逸らす。呻くような「人誑し」という言葉が聞こえた。
瑞希はアーサーを卑怯だとか、口が上手いだとか言うが、人の事は言えないだろうとアーサーは思う。
瑞希は言葉にこそ出さないが、態度や行動で好意を示してくる。そのくせ変なところで遠慮して此方の気を揉ませるから、言葉よりもずっと質が悪い。
唸るアーサーに、和やかにしていた子供達が顔を曇らせて伺い見る。下から覗くアーサーは、ほんのりと顔を赤らめていた。
「パパ?」
「どうかしたの?」
代わる代わると尋ねる双子に、大丈夫だとルルから答えが返る。二対の目に見つめられて、ルルはにっこりと満面の笑みをみせた。
「あんまり突っ込むと、馬に蹴られちゃうわよ」
「ルルっ!?」
ぎょっと目を剥いて大声を出したアーサーに、けたけたとルルが腹を抱える。
アーサーの顔は今度こそりんごのようになっていて、ルルの言葉の信憑性を裏付けていた。
よくわからないと首を傾げる双子に、瑞希もルルに追随する。
「私が、みんなのことが大好きだって言ったら、恥ずかしくなっちゃったみたいよ」
「ミズキまで……」
最早何処にも逃げ場無しと項垂れたアーサーとは裏腹に、双子は喜色満面に相好を崩した。
「オレも母さん達好きだよ」
「ライラもーっ!」
胸を張って言う双子があまりにも可愛らしく笑うものだから、瑞希はよろめいて胸を押さえた。今ならルルの気持ちが心底よくわかる。
昇天半ばのルルを視界の端におさめつつ、瑞希は幸せを噛み締めた。
アーサーが首まで真っ赤にして突っ伏しているのには、やっぱり見ないふりをした。




