ナイフとフォーク
宣言通り、瑞希は腕によりをかけて料理を作った。買い込んだ材料は代わり映えしなくとも、包丁の入れ方ひとつで見た目は激変する。
星や花の形をした野菜の料理は子供達の目を惹きつけてやまず、アーサーも器用なものだと目を留めていた。
「ミズキって本当に器用よねぇ」
「ありがとう。世の中には、オレンジで白鳥を作れちゃう人もいるのよ」
「…………そこまでいくと、食べれないわ」
もったいなくて、と興味半分の顔をしたルルに、確かにと瑞希も同意した。
飾り切りは手間暇かかるが、子供達の関心を集めるにはもってこいの手法である。ルルはもちろん、ライラやカイルも野菜を嫌うことはないのだが、今日の料理にはいつも以上にそわそわとしていた。
しっかり下味のついた鶏肉をフライパンに乗せると、じゅうっと肉の焼ける音がした。ぱちぱちと小さく跳ねる油と食欲をそそる臭いが広がっていく。
くう、と小さな腹の虫が催促の声を上げた。
余分な脂はこまめに取り除いて、表面がパリッと焼けると、ソースをとろりとかけて、星型の人参とほうれん草で飾った。
スープにサラダにと、できたものからテーブルに運ばれていく。ひとつひとつでも華やかだったが、集まればより豪華になった気がした。
ごくんと誰かの喉が鳴る。
瑞希はにっこりと笑って、音頭を取った。
「お待たせしました。さあ、召し上がれ! 」
「いただきまーっす!」
大きな声がして、フォークやスプーンが踊りだした。
ぱくんと大きな一口を頬張って、膨らんだ頰がもごもごと動く。んー!と幸せの声が上がった。
ミズキは子供達のはしゃぐ姿を嬉しそうに見守りながら、自分も一口スープを啜る。
ブイヨンの効いたスープは野菜の旨味もしっかり取り込んで、我ながらいい出来だと自画自賛した。
ちらりとアーサーの様子も伺ってみる。心なしかペースが割り増しされているようだったが、所作はいつもと変わらず綺麗だった。
瑞希も食器の扱いは人並みにできていると自負しているが、アーサーのそれは洗練されたもののようだと思った。音を立てないという点はもちろん、切り分けられた後の一口分も美味しそうに見える。
「アーサーって、食べ方すごく綺麗よね」
「…………そうか?」
思わず手を止めたアーサーが首をかしげる。どうやら自覚はないようだ。
「ミズキも十分綺麗だと思うが」
「私のは人並み程度よ。アーサーは綺麗だし、すごく美味しそうに食べるわ」
羨ましい、と零すと、アーサーは少し考えるように手元に視線を落とした。自分のと瑞希のとを見比べてみるが、大した違いは思い当たらない。
「もしかしたら、大きさかもしれないな」
「大きさ?」
「ああ。ミズキの作るものは美味しいから、つい大きく取ってしまう」
がっつかないようにと自制が大変なんだ、と肩を竦めたアーサーに、瑞希は顔を俯けて隠した。
「アーサーは口が上手すぎるわ」
批難めいた口調にアーサーは本心なんだがと思ったが、口には出さなかった。
瑞希は八つ当たりのように大きく鶏肉を切り分けて、ぱくんと口に放り込む。
「やっぱり、ミズキも綺麗だ」
そういうアーサーの言葉は、恥ずかしいから聞かなかったことにした。




