街の人達の反応
瑞希の開店予告は誰もが驚くほど早かった。当然といえば当然だろう、告知を始めた一週間後に開店するというのだから。
開店には妖精たちが惜しみない協力をしてくれた。家の改装はたったの数時間で完了し、実質として準備にかかるのは告知期間として設けた一週間だけ。個店を持ったら? と瑞希に話を持ちかけた老婆もあまりの速さに放心していたが、すぐに我に返って嬉しそうに破顔していた。
「ありがとうミズキ、これで安心だわ」
「お礼を言われるようなことは何にもしてませんよ」
「おやおや。じゃあ、そういうことにしておこうかね」
老婆は含んだ笑い顔を浮かべて、何時ものように塗り薬を買って帰って行った。
ありがたいことに、もう何人もの人に開店を楽しみにしていると温かい言葉を貰っている。贔屓にしてくれている町医者からは遠くなるのは残念だとまで言われて、頻度は少なくなるが時々は街へ露天商を開きに来ることを抜かりなく伝えておいた。それは良かったと喜ばれたのは言わずもがな、である。
一方で、乗り合い馬車を出す人たちからは早く開店してくれと急かされもした。街から離れているから乗客が増えると見込んでいるらしい。定期馬車を組もうと企画まで持ちかけられて度肝を抜かれたのは記憶に新しい。
不安が無いわけではないけれど、こうも多くの人に望まれていることが瑞希は本当に嬉しかった。
「ミズキ、またにやけてるわよ」
「う……ごめんごめん。でも、やっぱり嬉しいなぁ」
緩んでしまった顔を慌てて引き締めて、でも数秒の後にまた緩めてしまう。ルルはやれやれと溜息を吐いた。
「まったく、あれだけウジウジ悩んでたくせに、現金ね」
「だって嬉しいじゃない。妖精たちにも、お客さんにも喜んでもらえて。早く開店したくてたまらないよ」
楽しみだなぁ、と頻りに口にする瑞希に、ルルはそれもそうだけど、と口を酸っぱくする。もう何度目とも知れない注意を口にしようとして、しかしそれは不意に顰められた瑞希の顔にうち止められた。
いったいどうしたのだろう。ルルも苦々しい瑞希の視線の先を追って、間を開けずに嫌な顔をした。
道の先からは、瑞希もルルも嫌う人物が悠々と歩いてきていた。