興奮
「ミズキ、見てみろ」
イイもんが見えるぞ、と言われて、瑞希は馬車から身を乗り出すように覗いてみた。
馬車道の先、家の近くの少し開けた所で、馬が二頭首を並べて散歩している。その上にはアーサーとライラと、カイルが跨っているのが見えた。
「えっ、わっ、すごい!カイルったら、もう一人で乗れてるわ!」
今日が初めてなのに、と堪らず歓声を上げると、運転手もそれは凄いと感心した声を上げた。
馬の速度はきっと馬車よりも遅いのだろうが、カイルはぴんと背を伸ばして楽しそうにしている。
「これはお昼ご飯に気合入れなくちゃいけないわね」
腕がなるわ、と瑞希は口角を上げた。貸切状態の乗り合い馬車には、買い込んだ土産物が堆く積まれ小山を成している。
これ以上張り切るのかと運転手が失笑した。
「あっ、かーさーん!」
こちらに気づいたカイルが叫ぶ。手を上げようとして、アーサーに止められていた。
微笑ましいやり取りを眩しそうに見ながら瑞希が手を振る。
小さい何かが飛んでくる。ルルだ。
「ふっふふ!おかえり、ミズキっ」
ひゅんと瑞希の周りを一周して肩の上に落ち着く。こっそりとただいまと返すと、ルルは笑う声を大きくした。
「カイル、すごいでしょう? ライラもね、最初は怖がってたみたいだけど、今はもうへっちゃらなのよ!」
自分のことのように喜んで自慢げに話しかけられて、確かにふたりとも楽しそうだと瑞希の笑みも深くなる。
二頭の馬はゆっくりと馬車道の方に向かい、少し離れたところで足を止めた。
アーサーがまず馬を降り、ライラを抱いて下ろす。同じようにカイルも下ろしてから、三人で馬車の到着を今か今かと待っているのが見えた。
その場で足踏みする馬の胸あたりを、ライラが手を伸ばして撫でた。
カポカポと蹄の音を立てていた馬車が止まる。揺れも収まったことを確認してから、瑞希は待ち望んだと馬車を飛び降りた。
「カイル、ライラ!ふたりとも良く頑張ったね。馬に乗ってるの、ちゃんと見えたよ」
両腕に抱いた双子が照れ臭そうに笑う。誇らしげな笑みだった。
「慣れたら、走るのも教えてくれるって父さんが」
「あら、じゃあその時はお弁当作るね」
「あのね、高くて怖かったけどね、良い子だったから」
「そっか。でも、頑張れたライラもとっても良い子!」
代わる代わると言ってくる子供達に、今の自分は脂下がった顔をしているだろうと瑞希は自覚していた。
それは間違いではないようで、挨拶を交わしていたアーサー達が笑いを押し切れず声を漏らしていた。
常であれば恥らうなりしたのだろうが、今ばかりは瑞希も気が昂ぶって、気にしようとも思わない。
「お昼、美味しいものたっくさん作るから!そうだ、ぜひおじさんもいらしてください」
テンションと同じく高めのトーンの声で運転手を招く。
運転手は、嬉しそうにしながらも首を横に振った。
「家でかみさんが待ってるからよ」
照れ隠しかそれはぶっきらぼうで、けれど幸せが滲み出ていた。




