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おねだり

 「父さん、父さん」


 不承不承瑞希を見送ってから、くいくいと裾を引っ張られてアーサーは目線を下に向けた。

 カイルはアーサーの服を掴みながら、もじもじと目や体を動かしている。これは何かを強請(ねだ)る時の仕草だ。

 本の読み聞かせか、旅の思い出話か、と当たりをつけながらも腰を下ろすと、カイルは血色の良い頰を照れくさそうに赤らめて口をもごつかせた。


 「どうした?」


 努めて優しい声音を意識して尋ねる。自身が無愛想なことは百も承知なのだ。

 取り繕った甲斐あって、カイルが「あのね、」と言葉を紡ぐ。


 「馬…………乗りたいんだ」


 乗ればいいじゃないか。そう言いかけたところで、アーサーは慌てて口を噤んだ。一音もこぼさなかった自分の反射神経に内心で拍手を送る。

 アーサーが思い出したのは、少し前のことだ。乗馬を教えてやると自ら言い出しておきながら、今までその機会を設けていなかった。カイルが強請っているのは、きっとこのことだろう。


 「約束だからな、教えるさ」


 くしゃりと腰元にある頭をかき混ぜるように撫でると、カイルがはしゃいだ声を上げた。


 「ライラもどうだ? 馬に乗れて損はないぞ」


 聞いてみると、ライラは躊躇うように目線をうろつかせた。

 もしかして、他にやりたいことがあるのだろうか。もしそうなら無理には、と言おうとすると、ライラは恐る恐ると聞いてきた。


 「…………怖く、ない……?」

 「怖い?」


 日頃熱心に世話をしているから可愛がっているのだとばかり思っていたのだが、ひょっとして違うのだろうか。

 瞠った目でライラを見つめていると、小さな声でぽそぽそと「高いし……」と呟くのを確かに聞いた。


 「馬は賢い生き物だ。ちゃんとお前を支えてくれる」


 安心させるように言うが、ライラの不安は強いらしい。否とも応とも言えず俯向くばかりの片割れに、痺れを切らしたカイルがその手を掴んだ。


 「ライラもやるぞ!」

 「えっ?」

 「や・る・ぞ!」


 びっくりと目を大きくしたライラをぐいぐいと引っ張って、早く早くとカイルがアーサーを急かす。

 おろおろとカイルと自分とを見比べるライラに、アーサーは苦笑いした。


 「ライラは俺と乗ろうか。一緒なら怖くないだろう?」

 「う、うん……」


 せめてもの助け舟に乗っかって、ライラがようやく頷いた。

 カイルはライラを羨ましそうに見ていたが、口に出さないあたり強引過ぎた自覚があるのだろう。「カイルはまた今度」、と約束してやると、「絶対だよ」と張り切った声で返された。


 「ルルちゃんは?」

 「そうねぇ……じゃあ、今日はカイルと乗ろうかしらね。次にライラと乗ったらいい感じでしょ」


 ライラは数度目を瞬かせた。けれど、姉と一緒という魅力には勝てなかったらしく、拒むことはなかったようだ。


 「ライラー!ルル姉も、早くー!」


 ぶんぶんと拳を上下させるカイルに、はいはいと二人が笑いながら動き出した。

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