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鍛冶場にて

 鍛冶を生業にするディックの家には鍛冶場が併設されている。カンカンと金属を打ち付ける音を耳にして、瑞希は玄関ではなく鍛冶場の方へ足を向けた。

 好奇心もあって覗いてみた鍛冶場は、フェスティバル前ということもあって閑散としているかと思いきや、想像以上の人が行き来して、ひとつの喧騒を生み出していた。ひょっとして弟子というものだろうか。

 感心しきりに目を動かす瑞希に、通りがかった男が声をかけた。剥き出しにされた二の腕は見事な筋肉がつき盛り上がっている。


 「嬢ちゃん、こんなところで何してんだい?」

 「えっ……ああ、えっと、瑞希と申します。ダートンさんにお願いがあって参りました」

 「お頭に?」


 男はぱっちりと目を見開いて瑞希を凝視した。怪しまれてはいないようだが、困惑しているらしかった。

 しかし、考えていても埒はあかない。「お頭を呼んでくる」と言われ、男は鍛冶場の奥へと戻っていった。

 ぽつんとひとり待つ瑞希は、再度周囲に目を向ける。作られたばかりだろう農具の並んだ棚と、その近くには城に収めるのだろう立派な武具がずらりと陳列された棚。

 反対に、開けた所には用途のわからない器具や装置のようなものが設置されている。

 見慣れないその光景にとにかく好奇心を刺激されていると、鍛冶場の奥から影が二つ、慌てたように走ってくるのが見えた。


 「ミズキ、すまん、遅くなった!」

 「ダ、ダートンさん……」


 怒号とも思えるほど大きな声に、瑞希は頰を引き攣らせながらも隠すように会釈した。

 ダートンの後ろには、先ほど会った男が忙しなく視線を行き来させている。


 「お、お頭? こちらの嬢ちゃ……いえ、お嬢さんとお知り合いで?」

 「ん? ああ、お前は他所から来たから知らんのか。彼女はミズキと言ってな、街外れの薬屋の女主人だ」

 「街外れのって、あの凄腕って噂の!? こんな若い娘が!?」


 ぎょっと目を剥いて凝視されて、瑞希は思わずたじろいた。同時に、またかという諦めじみた苦笑いを浮かべる。

 ダートンはそれを愉快と歯を見せて笑った。


 「おいおい、見た目に騙されんじゃねぇぞ。こう見えてミズキは二児の母だ」

 「うっそお!?」


 男は今度こそ卒倒しかけた。譫言のように「嘘だ」「ありえない」などと繰り返す様に、してやったりとダートンが意地悪く笑う。

 瑞希は付き合いきれないと肩を竦めた。


 「もう、私を使って遊ばないでくださいよ」

 「はっは、すまんすまん。じゃあ中に入ろうか。おいお前、落ち着いたら茶を持ってきてくれ」


 ダートンは放心している男の背を強く叩いて、瑞希を休憩所へと連れて行った。

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