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 ふと、瑞希はディックを見つめた。ディックは今もペラペラと情熱的な言葉を言い連ねていて、鍛冶屋の息子というよりは営業職の方が向いているような気さえした。

 しかし、彼は鍛冶屋の息子なのである。瑞希は徐に口を開いた。


 「今度、そちらにお邪魔しても構いませんか?」

 「えっ?」


 ディックの間の抜けた声が店内に大きな響いた。思いも寄らぬ申し出に、いつものことと聞き流していた客達でさえ驚いて瑞希を凝視していた。

 ばきりと何かが壊れる音がして、ルルがはっと我に返る。


 「ミミミ、ミズキッ!?」


 何言ってるの!とルルが正気を疑うように瑞希を問い詰めるが、瑞希にはどうしてそこまで動揺しているのかわからなかった。

 ディックはぽかんと口を開けて惚けたまま、瑞希の問いかけに答える様子はない。

 訝しみながらも、瑞希はもう一度声をかけた。


 「造って頂きたい物があるので、今度そちらにお邪魔してもいいですか?」

 「ぇ、あ、ああ……なんだ、そういうことか…………」


 ディックはようやく、狼狽えながらも首を動かした。納得したような、がっかりなようなと心境は複雑だ。

 ルルも、そういうことかと安心したものの、紛らわしい言い方しないでよと苦言を呈した。


 「ウチはいつでもいいけど……鋳物売りも始めるのか? それとも何かの器具?」

 「いえいえ、アーサーに料理を教えることになりまして。それ用に網が必要なんです」


 アーサーのためと聞いてディックは不満と顔を顰めたが、網と聞いて不思議そうに首を傾げた。

 料理なのに網がいるのかという疑問もあるが、たかが網のためにどうしてわざわざ来るのかという疑問もあった。


 「網なら明日にでも持ってこようか?」

 「ちょっと加工もお願いしたいんですよ」


 細かい作業になると思うので、と付け添えると、ディックはようやく理解して、もう一度首肯した。


 「ミズキにはいつも世話になってるからな、親父にもよく言っとくよ」

 「よろしくお願いしますね」


 仕事の話が終わると、ディックは気が削がれたのか口説き文句を再開させることはなく、湿布薬を多めに手に取った。


 「おじさん、腰の具合良くないんですか?」

 「いや、悪くはないよ。ただ、毎年この時期は張り切りすぎるからね、用心の為さ」


 年を考えて欲しいものだと軽口を叩かれて、瑞希は何とも言えず軽く笑う。

 確かに、瑞希の中でも彼の父親は昔ながらの熱血漢という印象だったから、想像するに難くなかった。


 「ご自愛くださいとお伝えください」

 「ああ。ミズキからの言葉なら、あの親父でも聞いてくれそうだ」


 ありがとう、と千デイル硬貨を二枚置いて、ディックは薬屋を出て行く。

 からんとドアベルが鳴って、ようやく店内は元の動きを取り戻し始めた。

 

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