初挑戦
ぷかぷかとモチが調剤室を浮遊する。外で待つのを嫌がったので、妥協策としてルルが魔法で浮かせているのだ。
ゆったりと動きはするが、モチの望むようには動かない。それでも存外楽しいようで、モチはご機嫌で子供達の近くをゆらゆら動いていた。
大きな作業台の中心には、綺麗に水洗いした薬材が置かれていた。それぞれの前には汚れひとつ付いていない綺麗なすり鉢と棒が用意され、その隣には筆記具がある。
傷薬の調剤は時間を気にしなくてもいいため、メモを取らせることにしたのだ。
毎日の読み聞かせの賜物というべきか、一字一音という日本語と同じ表音文字ということもあってのことか。二人は文字を思えるのが早かった。せっかく覚えた読み書きなのだから、使わなくてはもったいない。
「まずは赤い実。これは傷の痛みを和らげてくれるの。薬草は殺菌と消毒……つまり、ばい菌を無くしてくれるものね」
瑞希の説明を、双子が小さな手を動かしてメモしていく。
二人の手が止まったタイミングを見計らい、瑞希は赤い実と薬草とをそれぞれ秤皿に乗せた。
「赤い実と薬草は、同じだけの重さ。天秤の真ん中にある針が真上を指していたら同じ重さよ」
また子供達の手が動く。それから、先に書き終わったカイルが天秤を見に来た。少し遅れて、ライラも天秤を覗きにくる。
「同じ重さになったら、ふたつをすり鉢に入れて、この棒を使ってすり潰す」
ぐちゅ、と水っぽい音を立て木の実が潰れる。すると少し淡い果汁が出てきたので、薬草から出てくる汁と混ぜるようにすり潰していくと、紫っぽいドロドロとしたものができた。
「まずはここまで。どう、できそう?」
確認すると、双子は大丈夫と勢いよく答えて、自分の席に戻っていった。
自分の使う天秤に秤皿を置いて、釣り合わせようと試行錯誤しているが、増やしても増やしても同じにならない。
困った顔を見合わせる双子に、ルルが小さく笑いながらアドバイスした。
「先に実を乗せてから、薬草を増やして釣り合わせるといいわよ」
ひとつひとつが重たい物は微調整には向かない。
双子はまたメモを取って、すぐさま実行した。今度はすんなりと釣り合った天秤に、二人揃ってほっと胸を撫で下ろす。
計量した薬材をすり鉢に入れてすり潰すのは、鉢が大きくないこともあって子供達にもやりやすい作業だった。しかしその分、根気が必要になる。
地味な力仕事で粘り気のある音を響かせながら、何度も何度も棒を動かして薬草をすり潰した。
そして、しっかり混ざり紫っぽい色になったところで手を止める。
「二人とも、正解!上手に混ぜられたね」
「初めてなのに上出来よっ」
にっこりと瑞希とルルが双子を褒める。
双子が少し気恥ずかしそうな、けれど嬉しそうな様子ではにかんだ。




