昼休み
フェスティバルの参加が決まったとしても、ルーティンワークは変わらない。
よく晴れた空の下、瑞希とルルは双子達と庭先に出ていた。
薬屋では、使用頻度の高い薬草は自家栽培しているからだ。庭先にはささやかながら薬草畑があり、午後の休憩時間に手入れをしている。
瑞希とルルが雑草を抜いていき、ライラとカイルが水を与えていく。
小さなジョウロでも水が入れば重いのだが、植物が日々成長していく過程が面白いのか、双子は畑仕事の手伝いには一等積極的だった。
その好奇心も相俟ってか、毎日の作業を通して、双子も薬草が見分けられるようになってきていた。
「もうそろそろ、カイル達もお薬作ってみる?」
せっかく自分で育てた薬草なのだ。それらを使っての調剤も楽しみなのではと瑞希が尋ねてみると、双子は大きな目を一際大きくきて、まろい頰を紅潮させた。
「やりたい!」
カイルがジョウロを掲げる。
ライラも声には出さないまでも、興奮した様子で頻りに頷いていた。
まるで違う表現の仕方に思わず笑いを誘われつつ、瑞希とルルが目配せし合う。
「じゃあ、カイルはこの列の葉っぱを、カゴいっぱいに摘んでくれる?」
「ライラはこっちよ。この木の実の真っ赤なやつを、このカップに捥いで入れてね」
それぞれに容器を渡すと、二人はそれを素早く受け取った。
二人がせっせと収穫していると、テラスで日向ぼっこしていたモチがぴょいと庭に降りてきて、側にあった薬草をシャクシャクと食べ始めた。
「あっ!こぉら、だめだよー」
「モチ、めっ」
双子に抱えられてテラスに戻されるモチは大変不服そうだ。何度も庭に降りようとしては双子に連れ戻されて、ついには拗ねたように背を向けた。
「っふふ、モチも、仲間に入れてほしかったのかしらね」
ころころと瑞希とルルは朗らかに笑いながら、他の薬草達を収穫した。
今回は使わないが成長しすぎたものも摘んで、モチの前に盛ってやる。モチは途端上機嫌になって薬草をしゃくしゃくと食べ始めた。
「何にする?」
「傷薬はどう? 覚えておくと便利だと思う」
「ああ、外でよく枝に引っ掛けてるものね」
ぽんぽんと交わされる会話の内で作るものが決まる。傷薬の軟膏は実用性が高く、薬研を使わなくても作れるので難易度も初心者向けなのだ。
手慣れた瑞希達にやや遅れて、双子も収穫を終える。こんもりとしたそれを自慢げに見せてくるので頭を撫でてやると、クリクリとした目が満足そうに細まった。
「さて、じゃあ二階に行こうか。二人は調剤室に入るの初めてよね?」
こくん、と二つの頭が縦に振られる。瑞希自身、双子の前で調剤をすることはなかったから、中を覗く機会もなかったようだ。
「じゃあ、入る前のお約束を言うよ」
ひとつ。人差し指を立てる。
「調剤室の中には沢山の物があります。薬草とか、お薬を作るための道具よ。中には危ない物もあるから、勝手に物に触らないこと」
真剣な顔の子供達がしっかりと頷く。
それを確認して、瑞希は「ふたつ」と中指を立てた。
「お薬は、分量を間違えると大変なことになります。治すための物が、逆に怪我を治りにくくしちゃったりするの。だから、絶対に私やルルの言うことを聞いてね」
薬と毒は諸刃の剣。薬草も使い方次第で毒になる。逆もまた然り。
双子は驚いていたが、これにもしっかりと頷いた。
瑞希の表情が真面目なものから、にっこりとしたいつもの笑顔に戻る。
「一応メモを取りながらお薬を作るから、わからないこととか、気になることがあったら聞いてね」
「はぁい!」
双子の元気な返事が揃う。
調剤室まで、後もう少しだった。




