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親の心子知らず

 「ルルったら、何に怒ってるの?」


 困り顔の瑞希に、ルルは自分で考えろと素気無く返してモチの背中に飛び乗った。

 モチは遊んでもらっていると思ったのか、丸い体をゆらゆらと揺らしてご機嫌だ。


 「ねえアーサー、本当にどうしよう。いい歳した大人が、こんな……」

 「なに、瑞希なら問題ない」


 軽く言い切ったアーサーに、それはどういう意味かと是非伺いたい。

 胡乱な目で見てくる瑞希に、さすがに失敗を悟ったアーサーが誤魔化すように咳払いした。


 「母さん、嫌だった?」


 事の成り行きを窺っていたカイルが、しょんぼりと眉を下げていた。自分の言葉が始まりだと、幼いながらもきちんと理解している。決して悪気があったわけではないが、もしかしたら自分のせいで母が嫌な思いをしているのだろうか。

 不安げな眼差しで見上げてくるカイルに、瑞希は安心させるように微笑を浮かべた。


 「嫌ってわけじゃないの。だだ、その……恥ずかしくて」

 「恥ずかしいの?  なんで?」

 「えっと……ほら、大勢の人の前に出るのはちょっと、……ね?」

 「“せんせい”だったのに?」


 こてんと首を傾げたカイルに、瑞希は天井を仰ぎたくなった。

 生徒と他人とでは全くの別物だと言っても、きっと通用しないだろうことは想像に難くない。年齢を引き合いに出そうにも、悲しいことに見た目が伴ってくれないので真剣に取り合ってくれる人は残念ながら少ない。というか、いない。

 そもそも、コンテストに年齢制限が設けられていない時点で使えない言い訳だ。

 何とか出場を回避しようとぐるぐる考えを巡らせていると、やはり嫌だったのかとカイルの顔が不安の色に染まっていく。

 焦る瑞希の腕に、小さなライラの手が触れた。


 「ライラ、ママと一緒がいいなぁ」


 お願いと、自己主張の苦手な子に精一杯に見上げられて、瑞希は言葉に詰まった。助けを求めるようにアーサーに目を向けると、にこりと微笑で返される。いつもは鉄仮面のくせにこんな時だけ、ずるくないか。

 マぁマ、とライラの強請る声。


 「……………………出、出ます…………」


 たっぷりの躊躇いの間を空けて告げた言葉に、双子は嬉しそうにはにかんだ。無邪気な笑顔は可愛いのだが、今だけは眩しくてつらい。

 項垂れる瑞希をくすくすと笑いながら、アーサーがカイルに声をかけた。


 「さあ、そろそろ風呂に入ろう」

 「はぁーい」


 素直な返事をして、カイルがアーサーのもとへ行く。瑞希たちは女性であることと、三人で入るため時間がかかることから先にアーサー達が入るのだ。

 瑞希はその間に洗い物を済ませようと立ち上がる。すると、手伝いにとルルとライラもついてきた。

 いつもありがとう、と瑞希がはにかんで礼を言うと、二人は「家族だから」と笑顔で答えた。

 多少の波風は立ったけれど、概ねいつも通りの穏やかな食後のひと時だった。

 けれどその時、アーサーが一度振り返って見ていたことは、誰も気がつくことはなかった。

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