お祭り情報
「なんだい、あんた達みんな、フェスティバルに参加したことがないのかい?」
今朝した話を話すと、聞いていた客のひとりが驚きの声を上げた。
信じられないと口を開けた老婆はマリッサという、瑞希が露天商だった頃から贔屓にしてくれている常連客だ。そして、店舗を持つに至ったきっかけとなった人物でもある。
「ここのフェスティバルは国内でも有名でね、わざわざ王都から見物に来る人もいるくらいなんだよ」
「そんなにすごいものなんですか!」
びっくりした瑞希に、マリッサは深く首肯する。
「だから毎年稼ぎ時でね、ウチの店も一日中満員で、そりゃあもう凄かったんだから」
自慢げに語る店は、確か喫茶店だったはずだ。今は息子夫婦が後を継いでいると聞いたことがある。
フェスティバルの開催期間はどこの店でも客が溢れかえるので、その準備期間でもある近頃は商会がてんやわんやらしいとは余談だ。
フェスティバルの話をしていたからか、カイルとライラが手を繋いでやってきた。ちょい、と服の裾を引かれて、マリッサが嬉しそうに顔をほころばせる。
「やあ、ライラにカイル。久しぶりだねぇ」
よいせと膝を折って二人の目線の高さに合わせると、しわくちゃの手を伸ばして二人の頭を優しく撫でる。子猫のように目を細めた双子に、マリッサはいっそう笑みを深めた。
「フェスティバルに行くんだってね、楽しみにしてると良い。終わりにはパレードもあるんだよ」
「パレード?」
声を揃えた双子が、さらに揃って首を傾げる。
ルルは当然知っているので、「あれは本当に見ものよねぇ」とひとり頷いていた。
「昼時くらいに、一年の『蕾』を決めるコンテストがあってね。選ばれた蕾が花籠に乗って街中を練り歩くのさ」
つまりは、ミスコンのようなものだろうか。瑞希は大学時代を思い出した。
学園祭の催し物のひとつとして毎年開催されていたそれは、アナウンサーを志望する生徒が多く立候補していた。瑞希は見物だけだったが、何人かの教員志望者も記念だからと参加していた気がする。
フェスティバルのコンテストは、参加条件は『未婚女性であること』だけだそうだ。年齢制限はなく、妙齢の女性が選ばれた年もあれば、ライラくらいの歳の女の子が選ばれた年もあるらしい。
ルルは見たことはあっても規則までは知らなかったらしく、聞いた途端に俄然テンションを上げた。
「ミズキ、エントリーよ!ライラなら絶対に優勝できるわ!」
間違いない!と豪語するルルに、ライラ本人はキョトンと目を瞬かせている。カイルはじっとライラを見た後、ついで瑞希を見上げた。
「母さんは出ないの?」
「え?」
予想外の展開に、瑞希はぱちりと瞬いた。
未婚女性--確かにこの条件なら、瑞希にも参加資格はある。
マリッサはきらりと目を光らせた。嫌な予感しかしない。
「そりゃあいい!カイル、よく気がついたね。任せときな、ライラとミズキの分はウチから推薦しておくよ」
「えっ? ちょっと、マリッサさん!?」
「イイ線いったら店の宣伝にもなる、お互い損はないさね」
言うが早いか、マリッサは老体とは思えないほど俊敏な動きで今来たばかりの馬車に乗り込んだ。
客の乗降が終わった馬車は、ゆっくりともと来た道を戻っていく。
「なるほど、ミズキとライラでワンツーフィニッシュになるのね」
ふむふむ、というルルの声が、賑やかな店内の中でもよく響く。
瑞希が叫んだのは、その数秒後のことだった。




