子供達の主張
リビングは暖炉のおかげでだいぶ暖かくなっていたが、まだ寒いのか子供達は暖炉の前に固まっていた。一番前を陣取るのはモチで、その背中にはルルがちょこんと座っている。
モチもだが、実はそれ以上にルルが寒さに弱いのだ。
ルル達妖精は、花や木といった植物から生まれてくる。冬に咲く花が少ないように、花から生まれたルルも冬が苦手なのだ。
しかし、だからと言って冬も悪いことばかりではない。もうそろそろねぇ、とルルは朝食の席で楽しそうに笑った。
「? 何かあるの?」
アーサーと二人、テーブルに料理を並べながら瑞希が尋ねると、ルルは元気いっぱいの笑顔で答えた。
「フェスティバルがあるのよ!」
なんでもこの辺りの地域では、毎年今ぐらいの時期に盛大な祭りが催されるらしい。冬の寒さが和らぎ始め、少しずつ草花が芽吹き出すこの時期に、早咲きの花を集めて春の訪れを祝うのだという。
妖精達にとって春の訪れはめでたいことであり、人間好きなことからも集落のみんなでよく遊びに行くのが恒例らしい。
「毎年たくさんの屋台が出るのよ!」
ぶんぶんとスプーンを振り回して語るルルがあまりにも楽しそうだからか、聞いていた双子もきらきらと目を輝かせる。
「行きたーい!」
声を揃えて言い出した子供達に、やっぱりねと瑞希は笑顔で頷いた。
冬に入る前、瑞希達はちょっとした騒動に巻き込まれた。そのショックで子供達はしばらく家族以外を怖がるようになっていたのだが、街の人たちが優しい言葉をかけ続けてくれたおかげで、今ではすっかり立ち直っていた。
薬屋 《フェアリー・ファーマシー》は、毎日定期的に乗合馬車が来ているとはいえ街から少し遠い。そのため街に出ることは少ないのだが、子供達が珍しく自分から主張してきたのだ。叶えてやらないはずがない。
それは話を聞いていたアーサーも同様だった。
「今度ロバートにでも日程を聞いてみるか」
瑞希達が懇意にしている医師の名を出すと、子供達の期待はますます高まった。
まだいつになるかもわからないのに心待ちにする子供達に、アーサーと瑞希は穏やかに笑い合った。
「ああ、でも」
ふとこぼしたアーサーの声に、子供達がそろそろと目を向ける。まさか、と怯えを滲ませる眼差しに内心で笑いつつ、アーサーははっきりと言った。
「浮かれて手伝いを忘れるなよ?」
「!うんっ」
ぱあっとまた笑顔を浮かべた子供達とアーサーを見守りつつ、瑞希も微笑ましいとにこにこ笑う。台詞は取られてしまったが、これはこれでよかったと満足していた。
もふんっ。ナッツサラダを食べ終えたモチが瑞希の足の上に体を乗せる。声はなくとも、じいっと見上げてくるつぶらな瞳が訴えてくる。
「モチももちろん一緒よ」
わかってるわ、と苦笑いした瑞希に、モチは満足そうに鼻をひくつかせた。




