初めての冬
瑞希の朝は早い。今日も陽が昇り切るより早く目を覚ました。
店は朝の九時開始だからまだまだ時間はあるのだが、それまでにやることはたくさんあるのだ。
この世界にやってきて初めて迎える冬は、とにかく寒いの一言に尽きる。なにせ、地球では散々お世話になった暖房器具がないのだ。
今日も、一番に起き出した瑞希は分厚いブランケットに身を包んで、一階のリビングへと降りていく。夜に焚いたままにしていた暖炉も、夜中のうちにすっかり燃え尽きてしまっている。
ランプの火を移し分けて暖炉を焚き直し、瑞希はひんやりとしたキッチンに立った。寒い時期こそ温かい朝食が大事なのだと、地球で母に再三言われてきたのだ。
ブロッコリーととうもろこし、ベーコンを角切りにして炒める。それから鍋に移して牛乳を加え、コンソメで味を整える。
スープを煮込んでいる間にはパスタを茹でてていく。程良い硬さになったら湯上げして、玉ねぎたっぷりのミートソースと絡めながら炒めた。
キッチンからふんわりと美味しそうな匂いがし始めて、ようやく他の家族達が起き出してくる。
「おはよう、アーサー」
「おはよう、ミズキ。今日も早いな」
しっかりと身支度も整えてやってきたアーサーはあくせくと動いている瑞希を認めると少しだけ目元を和ませた。
それから思い立ったようにキッチンへと入り、食器棚からティーセットを取り出した。
「ストレートでいいか?」
「わ、ありがとう。えっと……うん、アーサーにお任せするわ」
特に希望もないのでそう言うと、アーサーは迷いなく茶葉を手に取った。汲みたての水を沸騰させて、丁寧に準備を整えていく。
瑞希もよく紅茶を飲むのだが、アーサーの淹れた紅茶は格別美味しくて大好きなのだ。
「何度見ても不思議だわ。淹れ方は同じはずなのに……」
ひょっこりとアーサーの手元を覗き込むが、やはり自分との違いは見つからない。頭上で、くすりとアーサーの笑う声がした。
「ひとつくらい、敵うものがあってもいいだろう?」
「ひとつどころじゃないと思うんだけど……」
瑞希が少しだけ拗ねたようにすると、アーサーはまたくすくすと笑った。
その時、階段を下る軽い音がした。キッチンから顔を覗かせてみると、思った通り子供達の姿があった。
「ミズキ、おはよー」
「おはよう」
陽気なルルと、物静かなライラの声に、瑞希は穏やかな微笑を浮かべながら挨拶を返す。
ライラのすぐ後ろには半分寝ているカイルがいて、その足元には冬毛でもふもふ度割り増しになったモチがいた。
「カイル、モチもおはよう」
「ぅ〜…………ぁ、よぉ…………」
カイルはなんとか口を開くも、ほとんど声になっていない。双子なのに、寝起きは全然違うなぁと瑞希は笑った。




