プロローグ
街の外れの坂の上、馬車に揺られて行く先にある、こぢんまりとしたログハウス。
薬屋 《フェアリー・ファーマシー》は、安価で良質な薬を売ることで評判の薬屋だ。
家族のため、己のため。家族経営のその店には、今日も多くの人々が訪れる。けれど、その人々の顔には不思議と笑顔が浮かんでいた。
「い……いらっしゃいませっ」
カイルとライラは、今日も今日とて店の手伝いをしていた。よく似た双子はまだ人に慣れていないようだが、それでも一生懸命なことは見て取れるため、迎えられた客はほっこりとして相好を崩す。
「えと、今日のサービスティーの……カモミール? だっけ? お腹に良いお茶です」
「“しょほーせん”がある時は、会計の時に渡してください」
小さな手で差し出された紙コップを受け取ると、確かに花のような香りがした。
二人の接客はまだたどたどしいが、しかし案内となれば話は別だ。
「おちびちゃん達、すまんが湿布はどこにあるかね?」
杖をついた老人に声をかけられると、二人は笑顔で寄って行く。
「こっちだよ」
「足元、気をつけてね」
などと声をかけながら、人と人との間を動いて、目的の棚まで案内していく。話すことはまだ苦手でも、毎日母を手伝っているから何処に何があるかはちゃんと覚えているようだ。
その可愛らしくも頼もしい姿を見ながら、客の一人が呟いた。
「しっかりした子達だなぁ」
「本当に!でも、あの物慣れない感じが、またなんとも堪らないのよねぇ」
「そうそう。つい甘やかしちゃうわ」
会計待ちの列に並ぶ人々の会話に、レジに立つ女性が小さく微笑む。
穏やかな声で薬の説明をする小柄な彼女は、ぱっちりとした目が印象的だ。
彼女は商品を袋に詰めると、「お大事に」と声をかけ、次に並ぶ客へと向きなおる。
「いらっしゃいませ、お待たせいたしました。お品物をお預かりいたします」
十代半ばにしか見えないのに見た目の倍ほどを生きる彼女こそが、この店の店主、秋山瑞希である。




