朝
「みんなー、朝よーっ」
清々しい朝を迎えて、瑞希の声が響いた。
キッチンからは出来立ての朝食がいい匂いを漂わせ、次々とさらに盛り付けられていく。
とん、とん、と軽い足音が階段を降りてきた。
「おはよう、ミズキ」
「ママ、おはよー」
「んん……お、はょ……」
仲良く三人揃ってきた子供達に微笑んでおはようと返し、顔を洗っておいでと促した。朝が弱いカイルは、ルルとライラに手を引かれて船を漕ぎながら歩いていく。
ふすりと足元で音がして、ひょこんとモチが飛び跳ねた。
「モチもおはよう」
そう言うと、モチは満足そうに丸い体を跳ねさせて子供達の後を追う。
クロワッサンとマカロニサラダ、じっくりと煮込んだカボチャのポタージュと、カリカリのベーコンと半熟卵のベーコンエッグ。モチには水菜とハーブの特製サラダだ。
テーブルに並べ終えたら、今度は二人分のコーヒーを淹れる。
「………………いい匂いだな」
不意に耳許で呟かれて、瑞希は驚いて息を呑んだ。
慌てて後ろを振り向くと、ぶつかりそうなくらい近くにアーサーが立っていた。
予想外の至近距離に、頰が急速に火照りだす。
「アーサー!もう、急に現れないでって言ってるでしょう?」
瑞希が顔を赤くして怒っても、アーサーは飄々として動じない。
「おはよう、ミズキ」
まるで何事もなかったかのように挨拶されて、瑞希は悔しさと恥ずかしさとで何も言えなかった。
そこに、ぱたぱたと小さな足音が二人分聞こえてくる。
「お腹減ったー!」
元気いっぱいで主張する子供達に、アーサーと瑞希は顔を見合わせて小さく笑った。
「さあ、ご飯にしましょう」
にっこりと笑って、全員で席に着いた。
騒動からしばらく。心に平穏を取り戻してからようやく再開した薬屋には、話を聴き知って心配した客が思い思いの見舞い品を抱え、大群をなしてやってきた。
子供達は怯えて体を震わせたが、誰彼口々に温かい言葉をかけられて、少しずつ前のように打ち解けていった。
父と母と、小さな姉を頼りにしながら、二人は一歩、また一歩と人の輪の中へ入っていく。人の温かさをちゃんと知っているから。
街の外れの坂の上。ポツンと立ったログハウス。
馬車に揺られて着いた店は、ひとつの家族の家でもあった。
「い、いらっしゃいませ……っ」
ドアを開ければ、よく似た双子が声を揃えて迎えてくれる。小さな手が差し出すサービスティーを受け取って、案内を頼めば一生懸命に案内される。
レジの近くには丸々とした不思議な生き物が落ち着き、その隣で女店主が会計をしてくれる。
時折男が顔を出すと、子供達はその後を雛鳥のように付いて回った。
ふわりと不思議な風が吹くと、どこからかくすりと小さな笑い声が耳を掠めた。
薬屋 《フェアリー・ファーマシー》は、いつでもお客様のご来店をお待ちしております。
そして今日も、多くの客が訪れる。




