表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/478

 「みんなー、朝よーっ」


 清々しい朝を迎えて、瑞希の声が響いた。

 キッチンからは出来立ての朝食がいい匂いを漂わせ、次々とさらに盛り付けられていく。

 とん、とん、と軽い足音が階段を降りてきた。


 「おはよう、ミズキ」

 「ママ、おはよー」

 「んん……お、はょ……」


 仲良く三人揃ってきた子供達に微笑んでおはようと返し、顔を洗っておいでと促した。朝が弱いカイルは、ルルとライラに手を引かれて船を漕ぎながら歩いていく。

 ふすりと足元で音がして、ひょこんとモチが飛び跳ねた。


 「モチもおはよう」


 そう言うと、モチは満足そうに丸い体を跳ねさせて子供達の後を追う。

 クロワッサンとマカロニサラダ、じっくりと煮込んだカボチャのポタージュと、カリカリのベーコンと半熟卵のベーコンエッグ。モチには水菜とハーブの特製サラダだ。

 テーブルに並べ終えたら、今度は二人分のコーヒーを淹れる。


 「………………いい匂いだな」


 不意に耳許で呟かれて、瑞希は驚いて息を呑んだ。

 慌てて後ろを振り向くと、ぶつかりそうなくらい近くにアーサーが立っていた。

 予想外の至近距離に、頰が急速に火照りだす。


 「アーサー!もう、急に現れないでって言ってるでしょう?」


 瑞希が顔を赤くして怒っても、アーサーは飄々として動じない。


 「おはよう、ミズキ」


 まるで何事もなかったかのように挨拶されて、瑞希は悔しさと恥ずかしさとで何も言えなかった。

 そこに、ぱたぱたと小さな足音が二人分聞こえてくる。


 「お腹減ったー!」


 元気いっぱいで主張する子供達に、アーサーと瑞希は顔を見合わせて小さく笑った。


 「さあ、ご飯にしましょう」


 にっこりと笑って、全員で席に着いた。


 騒動からしばらく。心に平穏を取り戻してからようやく再開した薬屋には、話を聴き知って心配した客が思い思いの見舞い品を抱え、大群をなしてやってきた。

 子供達は怯えて体を震わせたが、誰彼口々に温かい言葉をかけられて、少しずつ前のように打ち解けていった。

 父と母と、小さな姉を頼りにしながら、二人は一歩、また一歩と人の輪の中へ入っていく。人の温かさをちゃんと知っているから。







 街の外れの坂の上。ポツンと立ったログハウス。

 馬車に揺られて着いた店は、ひとつの家族の家でもあった。


 「い、いらっしゃいませ……っ」


 ドアを開ければ、よく似た双子が声を揃えて迎えてくれる。小さな手が差し出すサービスティーを受け取って、案内を頼めば一生懸命に案内される。

 レジの近くには丸々とした不思議な生き物が落ち着き、その隣で女店主が会計をしてくれる。

 時折男が顔を出すと、子供達はその後を雛鳥のように付いて回った。

 ふわりと不思議な風が吹くと、どこからかくすりと小さな笑い声が耳を掠めた。


 薬屋 《フェアリー・ファーマシー》は、いつでもお客様のご来店をお待ちしております。


 そして今日も、多くの客が訪れる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ