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祈り

 サンドイッチをほとんど残したまま、子供達を抱いて二階へ上がる。

 本当は着替えさせたかったのだが、僅かにでも顔を背けられてしまったのでそのまま寝てしまうことにした。

 ベッドに寝かせた子供達の間に挟まって、モチがふすふすと鼻を動かす。甘えなのか慰めなのか、すりすりと二人に懐いているけれど、双子はぼんやりとしたままだった。


 「ほら、ルルも。なんだかモチの背中が寂しそうよ?」

 「……うん……」


 ルルはわかってると頷いたが、動こうとはしなかった。

 瑞希は自分とカイルとの間にルル用のクッションを置いた。可哀想だか、今日はモチに我慢してもらおう。謝罪代わりに毛並みの良い体を撫でてやると、ふすんと少し大きな鼻音がした。


 「みんな、今日はたくさん頑張ったね。たくさん寝て、明日はお寝坊しちゃおうか」


 きっと今日起きたことは、きっともう街で共有されているだろう。明日が仕事になるとも思えない。街の人には、後日誠心誠意詫びることにしようと決めた。

 瑞希は優しい声音で、当たり障りのない事でもとにかく話しかけた。


 明日のご飯は何にしようか。

 起きてから、晴れたらみんなで日向ぼっこでもしようか。

 それとも、お菓子やお弁当を作って、集落に遊びに行こうか。

 雨だったら、のんびり本を読むのもいいかもしれない。


 思いついたことをひたすら声に出していく瑞希の意図を汲み取って、アーサーもあれこれと話しかけた。

 アーサーの旅話は子供達気に入りの寝物語のひとつだ。

 小さな体をさらに小さくするのを抱きしめて、優しく叩いて眠りを促す。

 どれだけの時間それを続けたのか、陽が沈んだ頃ようやく子供達は眠りについた。縮こまったままの体を楽にさせて、顔にかかる髪を除けてやる。

 寝顔はいつもと変わらないと安らいでいると、不意に、アーサーの指先が瑞希の前髪に触れた。


 「どうかしたの?」

 「……お前も、今日は疲れただろう。よく休んでくれ」


 アーサーの物静かな声に、そうねと瑞希が苦く笑う。本当に、今日は疲れた。

 伸ばされた指先を取って下ろすと、子供達を抱き込むような形になった。


 「お願い、今日だけでいいの……。こうしていてもいい……?」

 「当たり前だ。今日だけじゃない、明日も、明後日も……ずっと、いつだってこうしてやる」


 繋ぐ手に少しだけ力を込める。

 瑞希は僅かに目元を和らげた。


 「…………ありがとう」


 瑞希の目蓋がゆっくりと落ちる。


 「おやすみ……どうか、良い夢を…………」

 

 優しい、祈りにも似た願いを込めて、アーサーもまた、目を閉じた。

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