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爪痕

 ようやく泣き止んで、とまではいかないまでも愚図る程度にまで落ち着いた子供達は、ほんの僅かにでも瑞希やアーサーと離れることを嫌がった。ルルでさえ、それは例外ではない。小さな体で必死にしがみついてくるのを抱き上げると、首元にするりと額が寄せられた。

 抱き上げた体は、もう9歳のはずなのに驚くほど細く、そして軽かった。非力な瑞希でさえ、抱え上げられてしまうほどに。

 家に運び込むと、モチがカリカリと短い前足を伸ばして引っ掻いていた。何か騒ぎが起きていると察してくれていたらしい。

 モチは抱き抱えられた子供達を見るとハッとしたように飛び跳ねて、ぴょこぴょことその様子を伺おうとする。


 「ライラ、ほら、モチが心配しているぞ」


 アーサーが腰を下ろして少しだけ腕の力を緩めると、目元を真っ赤に腫らしたライラがゆるゆると顔を動かした。

 モチは一生懸命に体を伸ばしてライラに触れようとする。その必死さが伝わったのだろうか、ライラが片手をモチに伸ばした。額のあたりに触れられて、モチがぐいぐいと顔を押し付ける。

 アーサーは片手でモチを持ち上げると、自分とライラとの間にぽんと乗せてやった。

 もぞもぞとモチが動いて、落ち着く姿勢を模索する。

 もふりと柔らかな毛並みに顔を埋めても、ライラが口を開くことはなかった。

 アーサーは瑞希を見遣った。ルルとカイルは瑞希が抱いている。

 ルルは言葉少なながらも回復してきたのか、カイルに話しかけられるまでになっていた。

 しかし、ルルに話しかけられてもカイルが言葉を発することはない。カイルもライラも、多少動くことはあっても酷く無気力な状態になってしまっていた。表情も、あまり動かない。

 痛々しいその様子に胸が痛む。引き取った時よりも、なお酷い。疲れきって虚ろな目は何もかも諦めた目に酷似していて、もしこのまま子供達が心を閉ざしてしまったらと、嫌な可能性が脳裏を過る。


 「ねえカイル、お腹空かない?」


 窓の外を見れば陽はすっかり傾いて、青い空に橙が混じっている。正直食欲は湧かないが、何か少しでも食べさせなければ。

 カイルの反応を待ってみるが、縦にも横にも動かない。

 瑞希は冷蔵庫からサンドイッチを取り出した。昼食用にと作っておいた物なので量は五人分には少ないが、今はこれでも多い気がした。

 アーサーも瑞希も双子を隣に座らせようとしたが、二人は揃ってそれを嫌がる。ならばと膝の上に座らせてサンドイッチを持たせても、食べようとはしてくれなかった。


 「たくさん泣いたから、お腹空いちゃったわね」


 ぱくんと瑞希が頬張ってみせると、ようやくカイルはサンドイッチを口元に寄せた。アーサーも、同じようにまず自分が食べてみる。そうするとライラもゆるゆると同じように動いた。

 こんなに静かな食卓は初めてだ。いつもは話し声で賑やかなのに。

 カイルがようやく一切れを食べ終える。ふた切れ目を渡そうとしたが今度は受け取って貰えなかった。ライラは一切れの半分ほどで食べるのを止めてしまった。

 無理に食べさせるわけにもいかず、瑞希は優しく頭を撫でた。

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