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波紋

 昼も大分近づいた頃のことだ。

 ふと、ルルは扉に目を向けた。次の馬車にはまだ早いのに、複数の人間の気配を感じた気がしたのだ。

 ひらりと翅を動かして、少しだけ扉を開けてみる。そして覗いた外の光景に、ルルは声を無くした。


 「失礼する!」


 乱暴に扉を開け放たれ、現れたのは厳つい顔の巨漢だった。その向こうには、巨漢と同じ意匠の服を纏った男達が群をなしていた。


 「領兵が何でここに……?」


 しんとした店内で誰かが呟いた。

 警察のようなものだろうかと様子を見守る瑞希にカイルとライラが走り寄る。小さな体は恐怖で震えていた。

 強面、巨体、大きな音。二人の苦手な物が揃い踏みだった。

 巨漢は店中の注目を集めながら、物ともしない様子で大声を出す。


 「ここで不法入国者がいると通報があった。よって、直ちに連行する!」


 弁論の余地などないと言わんばかりの、威丈高な口調だった。

 巨漢が一歩大きく踏み出す。


 「ちょっと待ちな、領兵さんよ。それは、何かの間違いじゃないのか?」


 今しがたまで瑞希を口説いていたディックが、いかにも信じられんという顔で待ったをかける。声にこそしないものの、他の客も疑わしいと言わんばかりの顔をしていた。

 しかし、巨漢の態度は揺るがない。嘲るような目で無精髭の客を見下していた。


 「無論、何の根拠も無しに踏み入ったわけではない。信頼できる筋からの通報と、厳密に調査した上での出動だ」


 巨漢が口角を吊り上げ瑞希を見据える。

 瑞希の顔は真っ青だった。子供達を庇うようにしながらも、その身を震わせている。

 まさか、と客が驚愕に目を剥いた。


 「おいおい、それこそ何の冗談だ? ミズキが薬売りを始めてどれくらい経つと思ってるんだ」

 「それだけの期間不法滞在していたということだろう。現に、その女には戸籍がなかったのだから」


 それこそが証拠だとばかりに言い捨てられて、店内に今度こそ動揺が走った。半信半疑の面持ちで瑞希と巨漢とを見比べている。


 「ま、ママぁ……」


 ライラがとうとう泣き出した。

 カイルとルルが泣きやませようとするが、本人達もパニックに陥っていて空回りするばかり。

 瑞希でさえ混乱は凄まじく、とにかく巨漢から子供達を庇うことに精一杯だった。


 「わかったらそこを退け。抵抗するならば武力行使も(いと)わんぞ」


 威圧的な口調に、今度こそ巨漢が踏み切った。怯む客達を押し退けて、真っ直ぐに瑞希へと突き進む。


 「ママっ、ママぁ!」

 「やめろ!母さんを離せ!」

 「ミズキっ!!」


 腕を掴まれ力づくで引き剥がされた瑞希に子供達が追い縋ろうとする。

 巨漢はそれを乱暴に振り払って、あまりの強さに双子が床に叩きつけられた。


 「カイル!ライラ!」


 瑞希とルルの声が重なる。

 混乱と痛みとでわんわんと声を上げて泣く二人に、今すぐにでも駆寄りたいのに、巨漢がそれを許さない。

 腕を伸ばしても、また強い力で引き摺られ、ついに店の外まで連れ出された。

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