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アーサーとロバート

 「おお、アーサーじゃないか!」


 街道を歩くアーサーにかかる声があった。振り返ると、少し離れたところからロバートが手を振っている。

 ロバートは太めの体を動かしながら、アーサーの元に駆け寄った。


 「久しいな」


 双子の検診以来だとアーサーが目を細めると、ロバートも全くだと大きく笑った。ロバートの太腹は相変わらずで、ベルトが段を作っている。ちらりと見た跡はひとつずれていて、また腹が出たのだと見て取れた。


 「検診ついでに食べていけと、ミズキがいつも言ってるだろう」

 「せっかくの家族の団欒(だんらん)を邪魔する野暮などせんよ」

 「医者の不養生」


 叱責するような言葉も、ロバートは頑として受け入れない。彼には彼の信念があるとは理解していながらも、アーサーにはどうしても納得できなかった。

 気を落ち着けようとひとつ息を吐くと、大きな鞄が目に入った。開いた隙間から聴診器が見えている。


 「往診の帰りか?」

 「ああ。ディックのところのお袋さんがな。処方箋(しょほうせん)持って行くだろうから、頼むぞ」


 何の気なしにかけられた言葉に、アーサーは聞き覚えのある名前に記憶を辿り、やや渋面を作った。

 ディックといえば、何かにつけて瑞希に言い寄る男のひとりだ。父親の代わりに薬屋に来るたび、誰の面前だろうと気にせず瑞希を口説くらしく、双子に悪影響だとルルが憤慨していた。


 「今日の往診なら、きっともう薬屋に向かってるだろう。俺は少し用があるから伝えられない」

 「そうなのか? お前さんが何処かに行くのは久しぶりだな」


 確かに、とアーサーも思っていた。

 あの家は、酷く居心地が良すぎた。子供達と出会って、健気で無垢な親愛に情が湧いた。妖精がいようと何がいようと、何も変わらない。ありふれた、理想的な家族。

 なにより、瑞希の傍は心が安らぐ。失いたくないと心から思える拠り所なのだ。


 「…………お前さんは、やっぱりあの家に居る時が一番いい顔をするな」


 ロバートが笑う。それは瑞希が子供達に向けるような、優しげな笑みだった。

 そんな目で見られたことのないアーサーが、居心地悪そうに戸惑う。

 何か言い返そうかと思っても、嫌ではないからか言葉は浮かばなかった。


 「おっと、引き止めて悪かったな。あんまり遅くならん内に帰ってやってくれよ」

 「元からそのつもりだ」


 照れ隠しに憮然として頷くと、ロバートは豪快に笑って、ばしんとアーサーの肩を叩いた。


 「気ぃ付けるんだぞ!」


 じゃあな!と手を振って別れて、ロバートは自宅とは違う方向へと足を向けた。どうやら別の往診先に向かうらしい。

 子供達が世話になっている恩もある。何か滋養のあるものを土産にしようと決めて、アーサーは先を急いだ。

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