心の底
次の馬車が店の前に来ると、待ち合いの長椅子に座って談笑していた客もゆっくりと腰を上げる。入れ替わり立ち替わりの客の間を縫うようにして、子供達があちらこちらへと動き回った。
品数の少なくなった棚に商品を補充したり、サービスティーを用意したりと仕事はたくさんあるのだ。
薬は言うまでもないが、ハンドクリームを始めとしたケア用品や、ハーブティーなどの嗜好品も扱っているからか日々の売り上げは上々だ。
「大丈夫? 休んでもいいのよ?」
心配そうにする瑞希に、子供達は揃って首を振った。
「大丈夫、まだ疲れてないよ!」
「本当に?」
「ん……大丈夫」
みんな優しいから、と言ってカイルと仲良く笑いあうライラに、居合わせた客達は堪らず口元に手を当てた。客には見えないのをいい事にルルが身悶えしているが、ふにゃりと笑いあう双子は気づいていない。
「じゃあ、せめて小まめにお茶飲んでね? あと、疲れたら無理しないで休むこと」
約束できる? と瑞希が問えば、子供達は揃って笑顔で頷いた。
時計を見上げれば、昼休みまでまだ時間がある。午後の営業はひとりだから、中々大変そうだと瑞希は少しだけ怖くなった。
ふと、昨夜のことを思い出した。
もっと頼れとアーサーに言われた。けれどやっぱり、頼りすぎているくらいだと瑞希は思う。それを言えば、また怒られてしまいそうだが。
そして、引き摺られるように思い出したのは、その後のこと。
ぽうっと頰に熱が宿った。
アルコールによる、いわば事故なのだとわかっている。だからこそアーサーも、何も言ってこなかった。
今朝はいつも通りに振る舞えたから良かったものの、ふとした拍子に思い出しては胸が疼いた。勘違いしてはいけないと言い聞かせながらも、もしかしたらと期待してしまう。
(今さら、何を馬鹿なことを……)
「ママ?」
表情を翳らせた瑞希に、どうかしたのかとライラが見上げる。それに何でもないのよ、と頭を振って瑞希は膝を叩いて気合を入れた。
「さあ、お昼までもう少し、頑張らなきゃね。あ、でも、無理はしないこと!」
これ鉄則!と付け加えると、わかってると子供達が笑いながら答えた。
子供達が小柄な体で人波を縫って行く。瑞希も、やってきた会計の客を笑顔で接客した。集金の合間に袋詰めして、処方箋があればそれの説明もしていく。右も左も分からなかったけれど、働いている内に知識も増えた。
「いつもありがとうね」
「こちらこそ、ありがとうございます」
そう声をかけて貰うたびに、瑞希も笑顔になって礼を言った。




