朝食の席にて
翌日、瑞希はいつもと変わらない様子で朝食の席でアーサーや子供達と顔を合わせた。
「おはよう」
瑞希がにっこりと声をかければ、寝ぼけていたカイルもようやく頭が動き出す。
アーサーは暫く瑞希の様子を観察していたが、いつも通り忙しなく動き回る姿に思考を切り替え、子供達を引き連れて手伝いに加わった。
テーブルの上にはこんがりと焼いたトーストとグリーンサラダ、そしていま出したばかりのコーンクリームスープが並んでいる。モチにはサラダの他に果物も用意した。そして瑞希が席に着けば、朝食の始まりだ。
子供達にやりたいことやその日の予定を聞いたりするのが毎朝の日課だ。今日からはモチが加わったことで話題に事欠くことはない。
子供達の予定としては、午前はお店のお手伝い、午後はモチと遊ぶつもりらしい。
その後に、今度は珍しくアーサーが口を開いた。
「今日は街に行ってくる。何かいる物があれば言ってくれ」
アーサーが自分から街に行くのは久しぶりのことだった。子供達が自分も行きたい、と目を輝かせて見上げるのを「仕事だから」と困り顔で首を振った。
仕事と聞いたからには、子供たちが駄々を捏ねることはない。けれど見るからに落ち込んでしまうから、アーサーは葛藤に苦しむことになった。
言葉も表情の変化も少ないのに、実に感情豊かなものだと瑞希とルルが感心している。
「お昼はどうする?」
「…………いや、何時になるかわからないから」
不自然な間を空けて答えたアーサーに、わかったと頷きを返す。その後も思い悩むような顔をするから不思議に思っていると、コーヒーが空になっていることに気がついた。
ちょっと待っててね、と瑞希が立ち上がりキッチンに向かった後で、ちょこりとルルがアーサーの肩に乗る。
「…………どうかしたの?」
こっそりと小さな声。気遣わしげな顔に、アーサーは少しだけ表情を和らげた。
「少し、話がしたかっただけだ。帰ってきてからするさ」
「喧嘩したわけじゃないのね?」
「ああ。……聞かないんだな」
「当たり前でしょ。アタシ、そんな野暮じゃないもの」
見縊らないでよね、といかにも不愉快そうにルルが顔を顰めた。
瑞希とアーサーがベッドを抜け出していたことを、ルルは知っている。昨夜何があったのか、なんて聞くつもりはないけれど、何かがあったということは察していた。
だからこそ、ルルは何も言わない。自分が口を出していい領分ではないと理解しているから。
アーサーはじっとルルを見つめた。
この小さな妖精は、まだ幼いはずなのに時々はっとするようなことを言う。いや、幼いからこそなのか。
「ルルはすごいな」
素直に賞賛すると、ルルは当然だと胸を張る。
コーヒーを手に戻ってきた瑞希が、不思議そうにそれを見ていた。