四-2・奇祭 ――六歳。幼稚園年長
その本祭の後、町内に響き渡るくらいの勢いで泣いていた琥太が大体落ち着いたくらいに、生贄、つまりは琥太の控えテントに私と両親、そして当時三歳、幼稚園に入る前の幼児だった貫太が挨拶に入った。
「…………!」
赤い、泣き腫らした目をした琥太が驚いてシーツで自分の大事な場所を隠すのと、
「おう。よく来たなぁ!」
と気勢のある太い声で曾祖父が挨拶をするのとが同時だった。
「はい。ご無沙汰しております」
と両親が車椅子に乗った曾祖父に挨拶をするのと同時だったのは、
「ちんちん! ちんちーん!」
と喜びまくる三歳児の貫太の声だった。
両親は流石に驚いて貫太を軽く小突いて止めたが、
「なー! ちんちんなー!」
と曾祖父はむしろ貫太を煽っていた。三歳児なのだから、当然こういう場面は喜ぶだろう。私は何とも思わなかったが。
「こないで! みんなはやくでてって!」
琥太が鼻声で叫ぶと曾祖父は車椅子を器用に動かし、
「んー? 何だ琥太坊。お前もしかして柚眞がいるから恥ずかしがってんのかー? 何色気付いてんだよー? えー?」
にやにやした顔を琥太に近づけながら琥太を焚き付けた。
「ゆまちゃんとかかんけーないもん! はずかしいもんでてって!」
琥太は恥ずかしがっているんだろうと私は当然思ったのだが、
「いやー。こいつ別にテント入ってから全然恥ずかしがってなかったからね。知らん人に見られるのが嫌だってだけで、ここ入ったらすーぐ隠すのやめたもんなー? 琥太坊ー?」
笑って琥太を撫でながら曾祖父は言う。琥太はまずい! という顔をして誤魔化す為に何かを言おうとして口をぱくぱくさせたが、
「…………」
何も言えなかった。琥太は嘘が絶望的なまでにヘタクソだと、数年後の私は結論づける事ができて、そしてそれは大当たりだった。まぁ、その様子は中々面白かった。
「じゃあ別に柚眞と貫太に見せびらかすの平気だな? 琥太坊強い子だな! 柚眞。貫太。おいでおいで!」
その言葉以降しばらくは琥太にとっては地獄だったことだろう。私と貫太――主に貫太――に大事な場所をおもちゃにされる一時を味わったあいつは、またびーびーとやかましく泣き、祭の関係者を笑わせることとなったのだった。
後で聞いた話であるが本祭の生贄担当はテントを出ると家に帰るまで絶対に服を着てはならないしきたりとなっているらしく、その後車で移動する時にも素っ裸でいなければならなかったらしい。でも、
「ま、今回は女の子――つまり私だ――がいるから特別、ってことでな」
琥太はシーツを体に巻き付けて――遭難した人とかがたき火の側でやるみたいな、本来なら寒い時にやる格好だ――車に乗っていた。ちなみに季節はもう少しで夏になるっていうくらいで、私達でも結構汗ばんでいたような暑さだった。
「えーっと、汗すっごくないですか? 琥太君」
母が心配する程の汗達磨になってでも、琥太は体に巻き付けたシーツを手放さなかった。私は別に気にしないと前もって周囲には伝えていたのだが、つまりは琥太が気にしまくっていた訳だ。もう一度見せてしまっているというのに、どうしてそう拘るのか。男の拘りというのが私には理解出来ない、と六歳児に思わせる、そんな出来事だった。
「これ。このグミキャンディーあげるから。だからこたのあそこみたの、だれにもいわないでよね」
その日何度も琥太から私と貫太は懐柔を受けたが、生憎私は喋ってやりたくても喋れないし、貫太もすぐに忘れてしまった様だ。
「おー。それ琥太の大好物だぜ。それを人にやるってのすんげー珍しいからさ、大事に食えよ」
と琥太の祖父が笑顔で言っていたが、大好物が結構無駄に消費されただけで、かなり無駄骨だったと思う。
でも、やっぱりそれだけ必死になって隠蔽したい過去なのだろうなと私は思っている。
私の友人が書いている小説、『よこづなにっき』という作品にこの奇祭の話は詳しく載る予定です。まぁ、ただお察しですけど微笑ましいそういうやり取りを好ましく思う方以外はアレな内容ですね。そうですね。一応URLは張っておきます。R−18です。もう一回言いますR−18です! 大事な事なので(ry
気をつけてくださいませ。
よこづなにっき:常磐 龍
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3766448