一-4・無題 ――高校二年
『何の用? 別にアンタと話すような要件こっちにはないんだけど』
視線と手話で冷たくあしらう。
「んだよ。別に姉弟なんだからさ。用がなくっても話しかけて良いだろ? つか、用ばっちりあんだけどさ。姉貴には何の連絡も行ってないの?」
しかめっ面をしながらも、貫太は私に話しかけてくる。携帯電話を差し出しながら。
何の要件だ、そう怪訝に思いながらめんどくさい、という感情を露骨に示しつつ携帯電話を見ると、それは最近中高生に流行っている無料通話やグループでの会話ができるアプリの会話の画面で、
琥太坊「今年もバッチリ全国決めたよ! 来週にはまたケビンと一緒に来るからよっろしっくね〜♪」
と楽しげなメッセージを送りつけている例の初曾孫の文章だった。おまけにニコニコマークのスタンプまでつけてきやがって。ガキか。
読み終わった私は携帯を貫太に押し付けるようにして返しため息をこれまた露骨についた。
「やったね。俺またこの時期が来るの楽しみにしてたんだよね〜。今日早速その準備とかしてたんだけどさ。まぁそっちは大変だからちょっと嫌だったんだけど」
兄貴が増えるような感覚があるのだろう。普段こんなに饒舌になることのない貫太が、この時期になると本当にテンション高く喋り続ける。それがまたウザい。
「姉貴も何だかんだ言って、楽しみだろ? 琥太さん達が来るの! いっつも来る前は嫌っそうな顔してるけどさ。来たらいつも楽しそうだもんな!」
『やかましい』
という言葉と同時に脛に一発蹴りを入れる。
「うわっ! 痛ってぇ! 弁慶の泣き所とか最低なクソ姉貴だな。俺間違った事何一つ言ってねーのにな!」
『私は生憎手が使えないんだ』
そう手話で言いながら今度は股間を狙う。
「怖え! 姉貴クソ怖えぇ!」
走って貫太は逃げていく。窓の外は日暮れ。赤く染まった空が見える。
かぁ。かぁ。かぁ。カラスが飛んでいく。
そう言えば汗ばむ季節にもなったか。そうだ。また、この家が暑苦しく、男臭くなる時期がやってきた。この時期が、やってきた。